慶大と早大はしばしば「早慶」と並べ立てられる。特に早慶戦への注目は高く、お互いはライバル的存在だとよく形容される。
そんな関係の両校だが、内部では両校を行き来する人が意外と多い。その最たる例が、「早稲田三田会」という存在だ。
塾生は慶大を卒業すると、職業や卒業年度など様々な形で三田会に所属する。「早稲田三田会」は現在、慶大卒の早大教職員およそ20人で構成されている。実体を探るべく、記者は発足の立役者となった、早大先進理工学部の武田京三郎教授に話を聞いた。
早稲田三田会は2000年代に発足した。当時は「この世界に早稲田にだけ三田会がないとまで言われていた」と武田教授は振り返る。「そういう意味で早稲田三田会は慶應と早稲田を橋渡す組織です」
現在の活動は、年1度総会を行い、親睦を深め合っている。「一般的に三田会は同窓会組織として結束が強い傾向があるが、早稲田三田会も会員同士の自由な結束を旨として友好を深めている」と武田教授は話す。
慶大と早大の両方を知る武田教授に、両校の違いを聞いた。すると教育面で、慶大は基礎教育に、早大は専門教育に力を入れていることが大きいと感じるという。例えば、早大の理工学術院は入学の時から学科ごとに分かれ、専門教育が始まる。一方、慶大の理工学部では1年生は全学門同じ授業を受ける。「慶大で学問の基礎を学び、早大で専門研究ができてどちらの良さも学ぶことができた」と武田教授は述べる。
大学スポーツ一の盛り上がりを見せる早慶戦では「どちらを応援するかといえば、勝っている方も負けている方も応援する」という。しかし、「早大は慶大の倍の規模なので、慶大と比較するのは難しい」と武田教授は対立的な見方は必ずしも正しいわけではないと話した。
「慶大にも早大にも建学の精神がある。慶大だと独立自尊、早大では学の独立という言葉がそれに当たる。これは国立大学にはないもので、建学の精神のもと一貫した教育を受けることができるのが私大特有の長所だ」と武田教授。「どこの大学に入学しても入学した大学を好きになって、学生生活を楽しんでほしい」と話した。
一方、早大卒で慶應に関わる人ももちろん存在する。慶應義塾高校(塾高)の古川晴彦教諭は早稲田大学高等学院から博士後期課程にかけて早稲田で過ごした。「私が赴任した時には塾高の国語科の先生方は全員が慶大出身だった」そうだが、早稲田出身でも慶應出身者に温かく迎えられたという。
残念ながら、早稲田の同窓会組織である稲門会は慶應に存在しない。「慶應は社中精神のもとでタテヨコの組織力を最大限に活かすが、早稲田はどちらかというと一匹狼のようにひとりで屹立することが多い」と古川教諭は話す。
元々、創立者の福澤諭吉と大隈重信は仲が良く、相互に人材を輩出しあったという。現在でも早慶で交流があるのは、「早慶は『早慶』としてくくられるからこそ意味がある。互いに鏡像のように規定する関係で、互いに高め合ってきた」からだと古川教諭は考えている。
「自分は慶應の人と早稲田の人に見られ、早稲田の人に慶應の人と見られる。二項対立の間にいてどちらにも自由に行き来可能な特殊な立場だ」と話す古川教諭。東京ドームを借り切って運動会とすべての早慶戦を連動させる企画やさまざまな形での人事交流など、何か特別なことをして歴史ある早慶の関係に一役買いたいと話していた。
(椎名達郎)