パワハラ問題の根本的解決へは、ある程度世代交代を待つしかない。一方で、東京五輪の開幕は2年後に迫っており、待つだけではなく率先して解決に向けて動き出さなければならない。
組織の体質改善
スポーツ界におけるパワハラの根源にあるのは、競技実績主義からくる権力集中と内輪意識による組織の閉鎖性だ。
この体質を改めるためには、組織のトップや重役を適切に判断し選出しなければならない。明大政治経済学部の高峰修教授は「金メダルを獲得した人が組織のマネジメントもできるとは限らない。トップを選出する委員は、その人の競技実績だけではなく、マネジメント能力を適切に判断すべき」と指摘する。
また、外部の人材を新たに招き入れるのも一つの手段だ。実績を残した人への発言力の集中を抑えることができるほか、内向きの組織風土の改善にも期待できる。
指導者教育の必要
指導者教育にも力を入れていく必要がある。日本では、依然として多くの競技で「スパルタ指導」と称した暴力や暴言での選手育成が行われている。「スパルタ指導で結果が出てしまうと、成功例となってしまう。その結果、スパルタ指導に対して反論しづらくなってしまっている」と高峰教授は危機感を示す。
暴力や暴言で指導を行う指導者たちは、それ以外の指導法を知らないケースも少なくない。指導者たちの再教育は、スパルタ指導をなくす上で急務となる。
メディアの役割
スパルタ指導改善を求める世間の声も重要だ。社会的にスパルタ指導が否定されれば、そのような育成法を容認する指導者や選手へのブレーキとなり得る。その一端を担うのがメディアである。
高峰教授は「メディアがスポーツ界のパワハラ問題に対して敏感になっているのは一つの可能性を示している」と言う。メディアが積極的にスポーツ界の一連の問題を取り上げ、その是非を世間に問い、根本的な問題解決へ向けて報道をしていくことが、組織を動かす大きな力となる。
監視体制の強化
高峰教授は、組織運営の透明性確保と健全化のために、外部からの監視体制を整えることを最重要課題としてあげる。
先月30日に超党派のスポーツ議員連盟プロジェクトチーム(PT)は、相次ぐスポーツ界の不祥事を受け、再発防止についての提言をまとめた。提言は、上場企業が守るべき規範であるコーポレートガバナンス・コードを参考にした「スポーツ団体ガバナンスコード」の作成をスポーツ庁に求めている。
また、国と日本オリンピック委員会(JOC)など3組織の統括団体で作る監視組織「スポーツ政策推進に関する円卓会議(仮称)」を新設。統括団体は、各競技のコード順守状況を審査し、定期的に開催される円卓会議に報告する。会議でコードに反する事案が見つかった場合は、統括団体または競技団体に改善を求めることができる。
この提言は手放しに評価できるものではない。評価される側のスポーツ界が監視に回るという矛盾点や、国の関与がどこまで正常に機能するのかという懸念点は議論の余地がありそうだ。
しかし、東京五輪に向けてスポーツ界の組織改革がようやく動き出したという点では、一定の評価ができるのではないだろうか。
(鈴木里実)