東京を舞台にしたアニメーションを考えてみてほしい。種々のものがあると思われるが、東京の中でも局所的に一つの街自体に焦点を当てた作品となると、その数は少なくなる。本稿で取り上げる『デュラララ!!』は池袋にスポットを当てたアニメーション作品だ。
『デュラララ!!』は成田良悟の小説を原作とした、池袋を舞台に繰り広げられる群像劇だ。2010年にテレビアニメの第一期が放送されたが、忠実に再現された街のクオリティーの高さは、実際に池袋を訪れたことがある人であれば目を見張るものがある。
第一期のあらすじを簡単に述べると次のようになる。都会の非日常に憧れる高校生の竜ヶ峰帝人(みかど)は、幼馴染みの紀田正臣に誘われて、来良学園に入学するために池袋にやってくる。そこには個性的な面々が集い、帝人は池袋での刺激的な生活に期待と不安を覚える。一方で、池袋の都市伝説である「首なしライダー」ことセルティ・ストゥルルソンは、奪われた自身の首を探し求めていた。物語は中盤以降、謎の人斬り「罪歌(さいか)」の事件をきっかけに、カラーギャング(※注)同士の抗争へと発展する。帝人は非日常へと巻き込まれ、セルティもそれに関わっていくことになる。
ストーリーを彩るのは濃いキャラクターを持つ「キレた奴ら」だ。帝人・正臣のクラスメイトで人を愛せない美少女・園原杏里、裏で暗躍する神出鬼没な情報屋・折原臨也(いざや)、臨也を嫌悪する池袋最強の借金取り・平和島静雄、セルティを愛する闇医者・岸谷新羅(しんら)など、それぞれの思惑が交錯して複雑に物語が展開する。
群像劇である本作は、基本的に登場人物おのおのの視点から物語が進行していく。一度放送された場面が違う人物の視点から再度描かれることがあり、これによって視聴者はその時の登場人物の心情やその場面の背景を知ることができる。すなわち、まるでパズルのピースを組み合わせていくように、物語の全貌が徐々に分かってくる。その結果、本作は多数の声を含む重層的なスケール感が現れつつも、物語が全体として一つの声をあげているのである。
そしてその収束点となるのが池袋の街だ。池袋は異なる道を歩んできた雑多な者たちの声をまとめあげる調停者のような役割を担っている。原作者の成田氏によれば、本作の主人公はセルティであるが、池袋が持つ強大な包容力を考えれば、街自体が主人公とも言えるのではないだろうか。
東京・池袋。そこにはいろいろな人がやってきては去って行く。人々の日常は変わるかもしれないが、街はいつもと変わらず、「朝日は昇る」。池袋に集う者たちの奇想天外で十人十色の経験。ぜひご堪能あれ。
(曽根智貴)
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※注:カラーギャング
アフリカ系アメリカ人のストリートギャング(特にクリップスとブラッズ)の影響を受けて成立した、日本の非行少年集団のこと。メンバーが揃いのシンボルカラーをまとっていたことからこう呼ばれる。同じく池袋が舞台の石田衣良の作品『池袋ウエストゲートパーク』にも同様の集団が登場する。