「放射能を含む黒い雨が降ります、気を付けて。できるだけ多くの人に拡散してください!」東日本大震災が起こった2011年3月、全国で多くのうわさがメールや口コミにより流布し、社会的混乱を招いた。
今回は、このような災害時のうわさに詳しい、東大大学院情報学環総合防災情報研究センターの関谷直也准教授に、災害時に自分の身を守るための情報術を聞いた。
そもそもうわさとは、根拠がはっきりせず真実かどうかわからない話全般を指し、性質に応じて四つに分類される。ここで注意しておきたいのは、「流言とデマは異なる」という点だ。人々が不安感・善意などからついつい広めてしまううわさが流言で、社会的混乱を企図して悪意をもって流されるうわさがデマだ。
では、災害時に溢れるうわさの中で、正しい判断をするにはどうすればよいのだろうか。関谷准教授は、「真偽不明の情報を聞いたら、決して広めないことが大切だ」と言う。中国の『荀子』に「流言は智者に止まる」という言葉がある。賢い者は不確かなうわさを広めないという意味だ。一人一人が自覚をもって安易な拡散を食い止める必要がある。
また、公的機関の発表を確認し、うわさの真偽を判断することも大切だという。近年ではスマートフォンで情報収集をする人が多いが、実は災害時に停電が起こるとデータ通信が不通となる恐れがある。そのため、小型で電池式のラジオを携帯するのがよいそうだ。スマートフォンのラジオアプリはデータ通信を利用しており、災害時に聴取できない可能性があるため注意が必要だ。
以上のような対策は非常に大切だが、関谷准教授は「情報に頼りきるのも危険だ」と警鐘を鳴らす。情報を待たずにやるべきこともあるということだ。例えば大地震の発生時には、すぐに海から高台へ逃げなければならない。情報はあくまで避難の参考にするものだ。明らかな大災害に直面した時、取るべき行動は決まっているということを忘れてはならない。
また、関谷准教授は学生にだからこそできるアドバイスとして、住居の選び方を挙げる。「多くの人は、一日の半分以上は家ですごす。『どこに住むのか?』、たったこれだけで災害時のリスクは大きく変わる」。これからの人生で住居を決める際には、各地域の災害時のリスクを良く調べるべきだ。災害前にできる情報の活用術といえるだろう。
人間は何か初めてのことに直面すると、往々にして突飛な行動を起こす。「人間は過去の自分の経験に照らし合わせて判断しているため、初めての出来事には弱い」と関谷准教授は説明する。
大災害にも同じことが言える。人生で一度あるかどうかの大災害に直面した時、冷静な判断ができるだろうか。災害時にどう行動するのか、あらかじめ想定しておくのが大切だ。実際に、記者はラジオ付きのICレコーダーを買って携帯するようにした。できることからでよい。小さなことでよい。実行に移したい。
(太田直希)