今年に入りスポーツ界のパワハラ問題が次々と露呈し始めている。レスリング、日大のアメフト部、ボクシング。8月には体操の宮川紗江選手による告発もあった。
なぜ今、スポーツ界のパワハラ問題が露呈し始めているのか。その背景には、社会の変化が大きく関わっていると明大政治経済学部の高峰修教授は話す。
昨年アメリカで、ハリウッド映画のプロデューサーによるセクハラ疑惑が報じられた際、女優のアリッサ・ミラノさんが同じような被害を受けた人たちに向けて「Me Too」と声を上げるよう呼びかけた。いわゆる「#Me Too」運動だ。
こうした運動は世界中に広まり、社会のハラスメントへの関心は高まった。他にも企業内や家庭内でもハラスメントの問題が話題となり始め、それに伴い社会の目も敏感になった。
さらにスポーツ界でパワハラ問題が露呈し始めた要因には、2020年の東京五輪開催がある。スポーツへの注目度が高まっているのだ。
こうしてパワハラ問題は明るみになりつつあるが、今までパワハラが存在しなかったわけでは決してない。露呈してこなかっただけだ。
被害を受けていても、声を上げることができない。それがパワハラの特徴だ。パワハラは立場などの優位性を利用して相手に苦痛を与えるため、告発は自分の立場を一層悪くしかねない。だからこそ、表面化しづらい問題なのだ。
なぜ、スポーツ界でパワハラが横行しているのか。高峰教授は、パワハラを引き起こすスポーツ界の体質の問題点を二つ挙げた。
一つは、実績主義からくる権力集中だ。スポーツの世界では、「五輪に出た」「メダルを取った」というような実績が非常に重要視される傾向がある。よって実績を残した人の発言権が大きくなってしまうのだ。今年露呈したパワハラ問題も、少数への権力の集中が大きな問題となった。実績を出した人がマネジメント能力に優れているとは限らない。「実績だけにこだわらず、さまざまな観点から公正に組織のトップを決める必要がある」と高峰教授は指摘する。
もう一つの問題点は、内輪意識の高さからくる組織の閉鎖性だ。自分の競技に愛情があるからこそ、「自分たちの組織は自分たちでまわす」という意識が強いため、外部の介入を嫌う。この体質は、よく言えば一致団結した組織といえるが、一方で隠蔽体質にもつながりかねない。
スポーツ界の体質が旧態依然として、なかなか新しい感覚を取り入れることができずにいることは、パワハラ横行の大きな要因だ。
この体質を変えるにはまだまだ時間がかかりそうだ。「今上にいる人たちの意識が変わることがベストだが、期待は持てない」と高峰教授は話す。次の手段は世代交代を待つか、外部の人材を投入することである。しかし、内輪意識の高いスポーツ界に外部の人材を入れるのにも時間はかかる。
いずれにせよ、スポーツ界の体質改善にはある程度世代交代を待つ必要がありそうだ。しかし、ただ待つだけではなく今からしっかりと制度を整え、人々の意識改革につとめていく必要があるのではないだろうか。
(鈴木里実)