2018年は「副業元年」と呼ばれる。兼業・副業をめぐるさまざまな動きが起こるなか、この動きについて三人の識者に話を聞いた。
開業率の改善へ
中小企業庁で経営支援部創業・新事業促進課創業促進係長を務める高橋真寿美さんは兼業・副業について、大きく三つの流れがあると話す。
一つ目は自社社員の兼業・副業を認める企業の増加。二つ目が兼業・副業を望む個人の増加。三つ目が兼業・副業を行う個人を受け入れる企業の増加だ。
この流れの要因として人生100年時代への突入とモデル就業規則の改定があげられる。
寿命が延びたことで、主体的なキャリア形成に対するビジネスパーソンの関心が高まった。企業ではモデル就業規則の改定の影響が大きくなっている。モデル就業規則とは厚生労働省が発表している文章で、各企業が作成する就業規則のモデルとなる。以前までモデル就業規則では兼業・副業が原則禁止されていた。しかし昨年度に厚生労働省が開催した「柔軟な働き方に関する検討会」での議論を踏まえ、原則的に兼業・副業を認める方向で改定された。
近年では労働者が兼業・副業をする目的が変化していると高橋さんは語る。以前は収入増加を目的としていたが、現在はスキルや経験を求めて兼業・副業を始める人が増えている。株式会社ビズリーチが広島県福山市で兼業・副業限定で採用した人は、高キャリアと呼ばれる人たちだった。
「収入ではなく、地方創生事業に関わったという経験ややりがいを得るために応募してきたのではないでしょうか」と高橋さんは話す。
中小企業庁が兼業・副業を推進する目的は、開業率の向上だ。日本の開業率は先進国の中でも低い水準にある。その理由の一つが、金銭面のリスクだ。本業と両立させることは、このリスクを軽減し、個人の開業を促進する効果がある。
本業と「複役」の両立
副業・兼業について慶大商学部の清家篤教授は、収入増加やリスク分散の利点はある一方で、本業の能力向上が疎かになる問題があると指摘する。「本業あっての副業。若い人は本業の能力が充分ではありません。若い人はまず本業の能力を高めることが重要です」
さらに副業・兼業で労働者の労働時間が長くなり、企業の労働時間管理が難しくなるという企業側の問題もある。
むしろこれからの時代に、清家教授は「副業」よりも「複役」こそ大切であると語る。人口が減少する原因に、子育ての時間をとれない問題がある。そこで大切になるのは1人で複数の役割をこなす複役という考え方だ。複役とは、職業人としての役割だけでなく、家庭人としての役割、さらに地域社会に貢献する地域人としての役割などである。地域社会への貢献としては、子育ての助け合いや、ボランティア活動などがある。東京五輪のボランティアなども、それにあたる。
本業と複役を両立させるために、個人は本業でしっかりと収入を確保すること、企業は長時間労働の是正や、労働時間の弾力化が必要になってくると清家教授は話す。
兼業・副業は、本業が成り立っていることを前提とする。まず本業をこなす能力も身につける。そうすれば、新しい可能性に挑戦できる下地が作られるのかもしれない。
副業が当たり前になるような環境を整える「BizGROWTH」
近年、兼業・副業が盛り上がりを見せるなか、新しい取り組みも行われている。株式会社リクルートは、兼業・副業の実証実験としてマッチングサービス「BizGROWTH」を始めた。
未成熟な副業市場に一石を投じる試みとして期待される。サービス考案者の山崎浩平さんに話を聞いた。
従来は、副業を行いたいワーカーが仕事を見つける際、知人やクラウドソーシングを利用するのが一般的だった。そのため条件面や仕事内容が自身のスキルに合わない事態が発生しやすい。また、クライアントが提示する案件の業務範囲が不明瞭であるために、仕事を請け負いにくい面もある。
一方、クライアント側には慢性的な人材不足の問題がある。現状人手が必要な際、人を採用したり、代理店やコンサルティングを利用したりして、必要な人材の確保を行う。しかしコストやリスクの面から根本的な解決には至らない。
「BizGROWTH」は、事前に仕事の発注内容を決め、その仕事に必要な時間と時給から最低賃金を規定した「ジョブカタログ」を導入することで問題解決を図った。クライアントはカタログから発注したい案件を選び発注する。ワーカーはその発注された案件から請け負いたい案件を選び、入札を行う。クライアントは入札額やワーカーのスキルから適切な人材を選び、マッチングが成立する。
「ジョブカタログ」を介して、ワーカーとクライアントが直接やり取りをすることで、ワーカーはスキルに見合った対価を得られ、一方クライアントは容易にスペシャリストを確保することができる。
山崎さんは今後の副業市場について、「副業は政府主導の動きで当たり前になりつつある。そこで自分たちは副業に合った求人票を作る。それがジョブカタログだと思う。副業が当たり前になっていくための環境を整えていきたい」と話す。
働き方の変化は新しいサービスやビジネスチャンスを生むのかもしれない。
(藤田龍太朗)