あなたの周りにLGBT(※1)の人はいるだろうか。実は、日本人の7.6%がLGBTだと推定されている(2015年、電通調べ)。あなたの周りに13人の友達がいれば、その一人は当事者かもしれない。LGBTを巡る話題は、誰にとっても身近なものなのである。
「学生時代は、叶わぬ恋だと知りながら、同性の友人に恋愛感情を抱いた。その罪悪感に、独り悩み、苦しんだ」。そう話すのは増原裕子さん(40)。レズビアンであることをカミングアウトし、LGBTの人々が生き生きと活躍できる社会を目指して活動している。
増原さんは、2003年に慶大大学院を修了後、12年間の会社勤めを経て15年にLGBTコンサルタント業で独立した。同年には、渋谷区の同性パートナーシップ第一号となり、世間の注目を集めた。増原さんは「15年ごろからLGBTに関する報道の数が格段に増えた。少しずつだが社会が変わり始めている」と実感を語る。
今年5月、一人の女性が同性パートナーと交際中であることをカミングアウトした。増原さんのパートナーである、経済評論家の勝間和代さん(49)だ。「勝間さんは同性に惹かれる自分を隠してきた期間が長かった。その上、知名度も高い。カミングアウトの前は世間や知り合いがどんな反応をするのか不安そうだった」
しかし、いざカミングアウトをしてみると、不安は消えたという。インターネット上では差別的な発言も見られたが、知り合いのほとんどが、「よかったね」「おめでとう」などと好意的な反応をしてくれたそうだ。勝間さんに寄り添ってきた増原さんは「彼女はカミングアウトをしたことを後悔していない。楽になれたと思う」と振り返る。
増原さんは、変わりつつある社会の未来を見据えている。「LGBTの人たちが自発的にカミングアウトしたいと思えるような社会を作りたい。セクシュアリティという、自分の根幹をなす情報を隠して生きなければならない社会構造はあまりに不自然で、息苦しい。きちんと息のできる社会を作りたい」
一方で、非当事者の心ない行動で、悲しい事件も起こっている。15年には、一橋大学法科大学院の学生がゲイであることを暴露(アウティング)され、自殺した。増原さんは「現代の東京であのようなことが起こった。非常にショッキングだった」と胸の内を明かす。
カミングアウトをせずに隠して生きていきたいと考える人もいる。しかし、果たしてそれが正解なのだろうか。増原さんはこう語る。「カミングアウトをしないという選択は尊重されるべきだし、一見主体的な意思決定にも見える。しかし、それしか選択肢がない状況に追い込まれている、とは言えないだろうか」
カミングアウトが増えつつある今、カミングアウトを受けた人は、どのように行動するべきか。増原さんは、過剰に身構える必要はないと言う。「出身地や家族構成など、みな違いを持って生きている。LGBTもそうした違いの一つとして受け止めてほしい」。その上で、「多くの人にとって隠す必要のない情報であるSOGI(※2)は、LGBT当事者にとっては大切なプライバシー。あなたが信頼されていることを忘れないで」と訴える。
近年、LGBTを巡る議論は活発化しており、当事者たちが生きやすい社会づくりは少しずつ進んでいると言えるだろう。しかしいまだに、強い差別や偏見の目が残っている。「LGBTの人々はスタートラインがマイナス。それをゼロに戻すのが私の使命だと思っている」。全ての人が笑顔で過ごせる社会の実現を目指して。増原さんは、今日も進む。
(太田直希)
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※1 LGBT:レズビアン(女性同性愛者)・ゲイ(男性同性愛者)・バイセクシュアル(両性愛者)・トランスジェンダー(性別越境者)の頭文字から成る言葉。性的少数者の総称としても使われる。
※2 SOGI(ソジ):性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の頭文字から成る言葉。自身の恋愛対象となる性と、自身の性別に対する認識(心の性)を表している。