洋画を観る時に欠かせない字幕。歴史に残る名作も、字幕がなければ世界的大ヒットには繋がらない。台詞を翻訳する字幕翻訳者は、多くの人に映画を届ける影の立役者だ。
石田泰子さんは、今年大きな話題を呼んだミュージカル映画『グレイテスト・ショーマン』や、現在公開中の『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』など、有名作品の字幕翻訳を数多く手掛けてきた。
石田さんの仕事は、英語の台詞をきりの良いところで切り、字幕が切り替わるタイミングを決める「ハコ切り」と呼ばれる作業から始まる。実は、字幕翻訳には字数制限がある。一度に字幕を表示できる時間は最大6秒。その後、1秒あたり4文字という規定に基づいて翻訳していく。訳さなくても伝わる台詞や、役者の声が重なる台詞は訳さない、などの取捨選択が要される。
字数のほかに、漢字や差別用語、死語などの制限もある。目指すのは、一般的な日本人が違和感なく映画を理解できる翻訳。そのために、今の若者がどのような言葉を使っているのか、常にアンテナを張っているという。翻訳は「日本語が勝負」なのだ。「映画の主体は映像。意味が難しかったり、字が多かったりして映像を観る邪魔にならないように心がけている」
いくつもある制限の中で、ニュアンスまで正確に訳すことは難しい。特に文化の違いに苦労するという。イギリスでは老若男女になじみのある菓子「ジェリーベイビーズ」の日本語訳に困ったこともある。「最も気を付けているのは台詞と字幕のテンションを同じにすること。英語を母語とする人が感じているテンションをそのまま伝えたい」。
ニュアンスを伝えるためには、一つ一つの台詞の役割を考えることが重要だという。「字幕翻訳は、よくジグソーパズルに例えられる。台詞はピースのようなもの」。話者の人間性だけでなく、映画全体を俯瞰して日本語をあてる。
『グレイテスト・ショーマン』で石田さんが感じたテーマは「希望の塔」。楽曲『This Is Me』では、「ありのままをさらけだして良い」という歌い手の強い気持ちを一番に意識し翻訳した。曲のリズムも考慮し、「勇気がある 傷もある ありのままでいる」という字幕は、区切らず1枚に収めた。
また、『マンマ・ミーア!』の劇中歌「ダンシング・クイーン」のサビは、あえて日本語訳せずカタカナで表記。曲の持つキャッチーな雰囲気を壊さないためだった。このように悩みながら、120分の映画1本で約1500枚もの字幕をつくる。
責任感が強く、出来た作品を観て反省や後悔をすることが多いという石田さん。映画がヒットすることはもちろん、たった一人にでも届いたと実感できた時、やりがいを感じるという。石田さんの仕事の原点は「映画が好き」という純粋な思いにある。
(松尾美那実)