一度は諦めた野球 「俺の人生、面白くないな」
高校卒業後は福岡大へ進学し、プロを目指してプレーした。右肩を痛めながらも、九州六大学リーグでは本塁打王、打点王を獲得した。「野球はもういいや」。満身創痍で、野球への熱も冷めていった。
その後、地元の銀行に就職したが、一度野球を失うと徐々に後悔の念に駆られるようになった。「同級生でエースだった久保（貴大）は社会人まで野球を続けて、限界に挑戦している。それに比べて俺の人生、全然面白くないなと思ったんです」。大学時代に教育実習で授業を受け持った佐賀北の教え子たちが夏の甲子園大会に出場したことにも感化された。銀行を退職し、特別支援学校の講師へ転身を遂げた。
障がいを持つ子どもに保健体育を教え、昼休みには一緒に野球をして遊ぶ日々。「キャッチボールしようや」。最初は自分から生徒に声をかけていたが、次第に生徒のほうから「先生、野球しましょう」と声をかけてくれるようになった。日に日に野球が上手くなる生徒たちを見つめながら、佐賀北でのびのびと野球を楽しんでいた頃の気持ちを思い出した。
やっとスタートラインに立てた 教員として再びグラウンドへ
昨秋、教員採用試験に合格し、今年4月には唐津工の野球部副部長に。かつてのチームメイトだった久保さんは母校・佐賀北の監督に就任しており、「やっと同じスタートラインに立てた」と前を見据える。
昨年末には、甲子園の決勝で戦った野村選手と、捕手としてそのボールを受けていた小林誠司選手（現巨人）を交え、「佐賀北―広陵ＯＢ」数人で会う機会があった。
「こいつらと野球をしてたんだと思うと、誇らしい気持ちになる。一番『応援したくなる』選手たちですね」
自身も「いずれは佐賀北の監督に」との思いがある。甲子園で再び野球を楽しむ姿を見せるため、教員としてグラウンドに戻ってきた。
「甲子園は、野球の面白さをたくさん教えてくれた。野球を続けることができたのは、甲子園のおかげです」
あの夏の歓声に背中を押され、今、野球人生の「次の打席」に立つ。
（広瀬航太郎）
