「プログラミング必修!? 最高じゃん、って思って」
SFCを志望した理由は自分のコンピュータが欲しかったからだという。そんな大学受験当時を熱く語ってくれたのは、SFCで特設科目「うた」の教鞭を執る北山陽一さんだ。
北山さんは普段、5人組男性ボーカルグループ「ゴスペラーズ」の一員として活動している。担当はベースボーカルが多く、最低音域であるために「最低男」を自称している。
環境情報学部に所属していた北山さんは3年生の時に、当時唯一のアカペラサークル「STREET CORNER SYMPHONY(早大)」を発見し参加、2ヵ月後にインディーズデビュー直前の「ゴスペラーズ」に加入した。1994年のデビュー後、『永遠(とわ)に』や『ひとり』、『ミモザ』など大ヒットシングルを連発し、NHK紅白歌合戦に6回出場した。2014年にはデビュー20周年を迎え、今もなお音楽シーンを走り続けている。
一見、大学の講義とは一切の関わりがなさそうな北山さんが、なぜ慶大の特別招聘(しょうへい)講師となったのか。
北山さんが「うた」の授業を持つことになった経緯に、当時の環境情報学部長、村井純教授との交流がある。2011年のこと、村井教授に「今のSFCの音楽コンテンツについてどう思うか」と聞かれた北山さんは、まだ音楽系の授業の拡充が十分でないという考えを伝えた。すると村井教授は「そうだよな。じゃあ、お前がやれ」と開講を即決。「その場で村井先生が『うた』という名前をつけてくれた」と北山さんは話す。
では、実際に授業では何を教えているのだろう。「そもそも『うた』には正解がない。でも僕は歌手なので、何を教えようかって。そこで『うた』をメロディや歌詞、リズムに分解しようと考えました。分解した後に組み立て直せば、その『分解』と『応用』のプロセスを自分で理解できるようになる」
もっとも、実際には「授業を受け持つ」ことは非常にハードだという。「『うた』には絶対的な正解がないから」だと北山さんは語る。では、なぜ彼は教壇に立ち続けるのだろうか。
「例えば、大学在学中に研究していることが、卒業する時には廃れている可能性がある。でも、一種のラーニングメソッドである『分解』と『応用』を知っていれば、そんな社会にすぐに適応できる。それを実感してほしいです」
最後に、北山さんから塾生に向けてメッセージをもらった。「慶大に入らなければこの人とは知り合いにならなかった、みたいな人との縁を大事にしてほしい。そして、とにかくやりたいことだけをやってほしい。その過程で起こりうる後悔をできるだけたくさん想定しておけば、人生のバリエーションが広がるから」
「うた」の授業。それは、ゴスペラーズの「最低男」が学生に「最高」の経験をさせてくれる場だ。
(浜中智己)