「ぼくのわけのわからないへんなかなしみはまだのこっている……そのままで……」「ぜったいきえっこないわ かなしみの“源”だもん でもそれは生きてるってことのしょうこなのよ」
1960年代後半、この「萬画」は生まれた。セリフは最低限、ほとんど絵のみで物語は進行する。これは日本漫画界の巨匠、今年生誕80周年を迎える石森章太郎の挑戦だった。
主人公・ジュンは漫画家を目指す少年。しかし父親に自らの夢を反対され、思うようにいかないことに悩む彼の前に、不思議な少女が現れる。彼女はかわいらしい小さな子どもの姿で現れたかと思えば、一瞬のうちに大人の美しい女性にもなって、ジュンを幻想の世界へ連れていくのだ。
この漫画はもはや一つの「詩」世界。沈黙の中、緻密な自然の姿、目まぐるしく流れる一コマ一コマがつながっていく様は漫画を読んでいるというより、絵画を見ているような気分にさせる。そこには言葉で語らずとも成立する世界観がある。
私にとって石森作品といえば、憂いのある表情が印象的だ。ジュンもまた、どこか悲哀を感じさせる目を時折見せる。それは彼の少年であるがゆえの繊細さ、もろさの表れかもしれない。時折、その目に吸い込まれそうになる。
命のはじまりとおわり、男女の愛、夏の思い出……。幻想を巡る静かな旅に出かけてみよう。
(杉浦満ちる)
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日吉図書館・1F特設コーナーにて、「ジュン」を展示中! 貸し出しもできます。