福澤先生ウェーランド経済書講述記念講演会が先月15日、三田演説館で開催された。会場はほぼ満員で、立ち見の聴講者もいた。
講演会は1868年、上野で新政府軍と旧幕府軍が戊辰戦争の戦闘を行うさなか、福澤諭吉がいつものように舶来のウェーランド経済書を講述し、学問は一日もゆるがせにできないと塾生に示したことを記念して、毎年開催されるものだ。
今年は、慶大総合政策学部教授の白井さゆり氏が登壇し、「日本銀行・元審議員からみた金融緩和の光と影」という題で、安倍政権下で日銀が行った金融緩和と日本の先行きについて論じた。白井氏は11年から16年の間、日本銀行政策委員会審議員を務めている。
講演の中で白井氏は、民主党政権時代の超円高は、日銀の金融緩和によって解消できたと評価した。一方で、安倍政権が掲げる物価上昇率2%目標は達成が難しいとした。家計の実感では、物価が高く収入が上昇していないと考える傾向が強く、企業が販売価格の引き上げに慎重なことを理由とする。
日本経済については、GDPは上昇しているものの、上昇率は独や米と比べて低く、名目GDP600兆円の政府目標も達成が難しいと論じた。
今後の見立てとして、年内は円安と日本株高が続くが、年初からアメリカの金融市場が不安定化しており、場合によっては円高・日本株安に動く場合もあると指摘する。また、19年から20年にかけて日本や他の先進国では、景気後退が始まると予想され、金融政策正常化に向けて、難しい段階に来ているとも述べた。
白井氏は日銀の金融緩和だけに依存しすぎない経済・財政構造を目指し、議論が必要であるとの見解を述べた。
最後に白井氏は、福澤先生の考え方を援用しつつ、それぞれ個人が自ら考え、現在の問題を解決していくべきであると締めた。