ワーク・ライフ・バランスとは?

「ワーク・ライフ・バランス」という言葉をご存知だろうか。日本では主として「仕事と生活の調和」と直訳され、最近の男女共同参画などに関する議論にも頻繁に登場する概念だが、まだこの言葉を身近なものとして感じている塾生は多くはないだろう。連載企画「慶應義塾における男女共同参画」第2回目の今回は、ワーク・ライフ・バランスという概念を通じて、社会における人々の望ましい「働き方」そのものに迫る。
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ワーク・ライフ・バランスとは「柔軟な働き方によって、多様な人材が活躍できる環境をつくっていこうという志向」と語るのは商学部の樋口美雄教授。先月28日より、商学部長に就任した。内閣府「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」委員などを務め、6月3日には日吉キャンパスで「なぜ、いま ワーク・ライフ・バランスか」と題した講演を行った。
樋口教授によれば、ワーク・ライフ・バランスにも「個人の私的時間の充実」や、「社員の生産性向上による企業競争力強化」など様々な側面があるが、どれも「従来の働き方を見直す」という点で共通しているという。日本で近年、こうした「働き方の見直し」が注目され始めた背景として樋口教授は、正社員の減少、非正社員の増加に象徴される労働市場の二極分化と、男女共同参画の進展を挙げる。
また樋口教授は、昨今若年女性の専業主婦への回帰志向が起こっているとしながらも、労働力人口の減少、男性の経済力の低下といった日本の産業構造や経済の変化は「好むと好まざるとにかかわらず」、職場や家庭における性別役割分担の見直しを要請しているとも指摘する。確かにこれまでのように「企業は仕事の強い拘束に耐え得る若い男性のみを活用し、家庭は女性に任せていく」というやり方は、もはや持続不可能になっている。
変化する時代状況に合わせて、部下の有給休暇取得率による管理職の評価など、様々な人事モデルが模索されている。「次世代育成支援対策推進法」改正など、国や行政の取り組みもある。だが行政などの一方的な介入には限界があり、組織の一人一人の構成員の意識改革を促進し、自分たちで積極的に実践していくアプローチこそ必要だと、樋口教授は強調する。
「企業の業種、置かれている環境によって、取り組むべき課題は違ってくる。これからは、国が『これがいいですよ』と示すのではなく、企業と個人と政府、自治体が『協働』して仕事の見直しを図っていくべきではないか」
次の時代を担う学生たちに向けて、最後に樋口教授は次のように語った。
「社会に出て自分の立場が拘束されるようになってからでは遅い。社会を客観的に見られる学生時代のうちに、将来の自分の働き方、いや、生き方について、是非、考えてほしい。われわれは、その考える材料やきっかけを提供していく」
(花田亮輔)