経済学は、社会科学の中でも、お金に関係する対象を扱うことが多いです。経済学は人の幸福のため、経世済民のため、というのは本当です。ただしそのためには、お金をめぐる人間行動や社会制度を知っておかねばなりません。市場や貿易、金融や財政を抜きにして社会を考えることはできません。
経済学は数学をよく用います。これは分析対象に、価格や量など数字で表されるものが多いからでしょうね。他の社会科学との大きな違いに見えるかもしれませんが、所詮、数学は表現ツールに過ぎません。自然言語のほうが表現に適しているもの、たとえば歴史や思想も、とても大事です。全て熱心に勉強したらいいです。
数学を使うことで、直観では導けない結果に辿り着けることは多くあります。学部の授業で扱うものだと、年金制度の移行問題が、私は好きです。現行の賦課方式(※1)の維持が困難だとして、積立方式(※2)へ移行すべきという議論があります。しかし式を立て、きちんと計算してみると、積立方式へ移行しても、メリットが、移行に伴うデメリットに丁度相殺されることが分かります。これは自然言語による考察だけでは分かりません。
勉強の進め方としては、基礎をしっかり体得するのが大切です。基礎がないと、学問を組み立てられません。カリキュラムでいうと、日吉で履修する必修科目・選択必修科目がそれにあたります。
まずは一度、学問を素直に身に付けてみてください。その学習の段階では、批判精神はいらない。まだ批判できるほど理解できてはいないから。役に立つかどうかも考えない。そんな高等なことが分かるほど、高いところにはいないのだから。面白いところを見つけよう、面白がれる主体に変容しよう、という姿勢が一番大切です。その後で、他の学問を学んで、経済学を相対化してみるとよいです。
新入生へのメッセージは、「投資の感覚をもってほしい」ということです。1000時間バイトするより1000時間勉強した方がリターンが大きいです。大学生のうちは投資効率が異常に高いから、時間の使い方をシビアに計算しないともったいない。日常的に経済学の思考を働かせてみてください。
(聞き手=神谷珠美)
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※1 賦課方式:現役世代の納める保険料が、高齢者に年金として与えられる制度。少子高齢化が進むと、維持が難しい。
※2 積立方式:自分が現役世代のときに保険料を積み立てて、高齢者になったとき年金として受け取る制度。貯蓄と同様のものなので、少子高齢化の影響を受けない。