1‌9‌9‌6年、ロシアのカムチャツカ半島で一人の塾員が亡くなった。写真家の星野道夫だ。彼はテレビ番組の取材同行中に、ヒグマに襲われて命を落としてしまったのだ。43歳という若さだった。

星野氏は、亡くなるまでの18年間アラスカで暮らしていた。本書は、アラスカの無機質な大自然を舞台にしながらも、人々の言葉が突き刺さる、人間味溢れるエッセイ集だ。

極寒の大地、アラスカに住むのは、ある理想を求めて「フロンティア」に引き寄せられた人、そして自然に対して強い本能的なつながりを意識している先住民だ。大自然とともに営まれてきた生活は、20世紀以降、存続の危機に直面する。核実験場計画や油田開発などだ。

自然保護を訴える団体であっても、白人の視点に立った運動に違和感を抱く先住民の声は特に印象的だ。「自然は見て楽しむものではなく、おれたちの存在そのものなんだ」

「アラスカはいったい誰の土地か」という難題に対し、人々が必死に模索する姿が細かく描写されている。

「アラスカも人の一生のように、新しい時代の中で何かを諦め、何かを選びとってゆく」。星野氏は、正しい選択をすることは難しいのでこだわる必要はないが、その時々でよい方向を模索する責任はあると考えている。

遠いアラスカでの「選択」の物語は、決して他人事ではない。何か道に迷ったときに読んでほしい一冊だ。

(山本啓太)

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