経済学部の池尾和人教授が、今年度3月31日で定年退職を迎える。そこで池尾教授にインタビューを行った。
池尾教授は日本経済における金融システムを専門とする。バブル崩壊後、日本政府などに対して金融システムの改革に関する政策提言を行ってきた。
―今のお気持ちは
特別な感慨というものはないですね。慶大を退職後も別の大学に再就職するため、自分の生活に大きな変化はないと思います。
―今までのご自身の活動は
純粋な研究というよりは政府への政策提言を行い、政策的な意趣に関わりました。1990年代の日本の銀行は不良債権を抱えていました。その問題が住宅金融専門会社問題、いわゆる住専問題です。その問題の解決や、日本の金融システムの改革を行い、現在に至ります。
―経済学を学ぼうと思ったきっかけは。
高校時代、岩波文庫のカール・マルクス著『賃労働と資本』という本に出会ったのがきっかけです。資本主義は財を再生産するだけではなく、システムの再生産も行うという記述に感銘を受けたのです。元々は理系だったのですが、微積分が苦手で文系に移り、興味を持っていた経済学を学ぶことにしました。
―金融学を研究しようと思ったきっかけは。
元々は理論家の経済学者を目指していました。ですが、当時の経済学は数理経済学で、一般均衡を扱っています。数学を扱う分野よりも実際の経済に触れることができる分野に進みたいと思いました。若手育成プログラムでアメリカ滞在をした際、アメリカは貯蓄貸付組合が不良債権を抱えていました。当時、政府はいわゆるS&L問題を先送りにしている状況でした。そういった状況で、S&L問題についての本や論文を読み、先送りすることの問題点を学びました。日本に戻った後、不良債権問題が発覚し、問題解決のための発言を行っていたところ、金融の専門家になっていたのです。
―今後のご予定は。
立正大学に再就職予定です。現在行っているような活動を今後も続けていきますね。
―最後に塾生に一言お願いします。
勉強を頑張ることです。今の学生は勉強時間が足りていないように思えます。現代の競争相手は日本国内だけではありません。国際的に競争する必要があります。現在日本の競争力は落ちています。競争力を高めるためには、自らの人的資本を高めないといけません。私が言う勉強とは、人的資本を高めることです。体系的な知識を蓄えることと、幅広い経験をすることです。そして、良い人材になって欲しいです。
―ありがとうございました。
(藤田龍太朗)
【池尾和人氏プロフィール】
75年京都大学経済学部を卒業し、80年一橋大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学、同年岡山大学経済学部助手を務め、86年京都大学経済学部助教授に就任。94年慶大経済学部助教授、95年同大教授で現在に至る。日本ファイナンス学会理事や日本経済学会の代議員などを歴任した。
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