天皇杯が懸かった、早大との天王山の戦い。優勝への条件は2連勝。春と秋、慶大が置かれた状況は驚くほど類似していた。
東京六大学野球リーグは、今年度も5人のプロ選手を輩出しており、高度な「個」の力のぶつかり合いが目立った。「人間力野球」で昨年度2連覇の明大、リーグ屈指の左腕が揃う早大、「甲子園出身のエリート」が名を連ねる法大、エース宮台が脅威となった東大。その中で、立大と慶大は「チーム力」を前面に押し出して戦った。
春の早慶戦では、あと1勝及ばず立大に賜杯を譲った。しかし、戦力やチームとしての結束力を比較すれば、慶大が優勝する可能性も十分にあった。
天下分け目のポイントとなったのは、大舞台での勝負強さだ。春に台頭した髙橋佑(環2)や髙橋亮(総2)ら投手陣は、優勝を目前にした大一番での登板経験が無かった。
その点で、春の早慶戦での敗北は決して「終戦」ではなかったと言える。春の残像が布石となり、秋に後半戦6連勝という快進撃が生まれた。
また、より強固になった「チーム力」に加え、主砲・岩見(総4)、巧打の5番・清水翔(総4)、「ドクターK」佐藤(環1)ら「個」の目覚めも優勝への原動力となった。岩見はシーズン最多本塁打記録7本で本塁打王、清水翔は打率.480で首位打者、佐藤は26回超を投げ奪三振42、最優秀防御率1.03の個人記録を手にした。
大学日本一こそ逃したが、これもまた次大会への「布石」かもしれない。他の5大学に揉まれて慶大が強くなったように、六大学にもはや絶対的な「陸の王者」はいない。スマートな野球をする時代は終わった。泥臭い慶應野球を観るために、来年度も観客は神宮へ足を運ぶだろう。
(広瀬航太郎)