ある国を想像してみてほしい。その国には、日曜の住宅地での芝刈りを禁じる法律がある。バーの窓は防音仕様にするか、0時には客を追い出さなくてはならない。その国で、騒音が深刻な問題として捉えられているということは明白だ。他人を苛立たせないための規則が定められていることは特段珍しくはないが、人々が実際にそれに従うというのは驚くべきことだろう。

この国では、一定期間、工芸品や飲食物を売る屋台が通りに立ち並び、数千人の客を呼び込む。加えて、この巨大な会場は11月、12月と、気温が時には-15℃に達する時期まで立ち続ける。街のメインストリートに、平日・休日関係なく、だ。私がどの国について話しているかもうお気づきだろうか。そう、ドイツである。Weinachtsmärkte、クリスマス・マーケットほど、ドイツ人が待ち焦がれるものはない。

この伝統は15世紀から存在し、元来は寒い冬に向けて人々に備えや蓄えを促す目的を持っていた。単に日用品を買いそろえる場を少しでも魅力的にしようと、菓子や軽食が売られるようになった。プロテスタント教会のマーケットはより多くの客を集めたが、最終的にはカトリック教徒の間で人気を呼んだ。17世紀頃には、今日に近いマーケットの形が完成した。

では、今日にはどのような風景が広がっているのだろうか。目をつぶる必要はない。肌寒く、しかし空気が澄んだ夕刻のドイツへと意識を向けてみてほしい。ここは、午後6時30分のシュトゥットガルト。この街の中心部にいるあなたは、クリスマス・マーケットの立つメインストリートに向かって、石が敷き詰められた小道を歩いている。何百人もの人々が食べ物越しにガヤガヤと賑やかに話す声が聞こえる。たった今、教会を通り過ぎ、そして市庁舎の脇を抜けようとしている。はやる気持ちを抑え、群衆の中をゆっくりと進む。ほとんどの人々が家族や親友、同僚、もしくはパートナーと来ているようだ。

あなたは、Weihnachtspyramidと呼ばれる、木でできた「ピラミッド」の横で、友人たちと待ち合わせの約束をしている。賢明な判断だ。今、目の前に現れたそれを見て、なぜここがミーティング・スポットとして最適なのか納得するだろう。天使の姿が彫られた、高さ18メートルもある木組みの「ピラミッド」は、飾りや電飾で彩られている。一段ごとにおもちゃを使ってミニチュアの風景が作り込まれており、それがほのかな灯りに照らされている様は美しい。

たった今、あなたはこのマーケットの中心へとたどり着いた。巨大なツリーを見れば、それは一目瞭然だ。野生の羊の毛で編まれた冬服、靴下や靴を売る職人たちがいる。多くの店は、自宅に置くための陶磁器や煙出し人形*を売っている。ホットチョコレートやホットワインの香りが鼻先を漂う。甘いもの、例えばアメ焼きのアーモンド、ハート型のジンジャークッキー、綿菓子、チョコレート… 焼き栗だけを売る屋台もある。おなかが空いてきたあなたは、ドイツ名物のソーセージ、Bratwurstの屋台の前で行列に並ぶ。遠くからは、男の子がクリスマス・キャロルをフルートで吹くのが聞こえてくる。

こんなに寒い日は何を飲もうかと考えるだろう。ホットワインと言うとあまり魅力的な響きではないが、これ無くしてクリスマス・マーケットとは言えない。Glühweinと呼ばれるその飲み物は、実に美味しいワイン――言うまでもなく――で、そのレシピにはシナモン、クローヴ、月桂樹、生姜、オレンジピール、アニスなども含まれる。香り高く、寒い夜にはぴったりだ。さらに、ホットワインを買えば、マグカップはそのまま家に持ち帰ることができる。マグカップの種類は毎年変わるので、自分だけのコレクションを作るのもいい。

そしてデザートの時間だ。「味」を印刷できないというのは何と残念なことか。なぜなら、世界の七不思議の一つ、Lebkuchenを前にすれば、どんな説明の言葉も陳腐に聞こえるからだ。それらは小さく、パンのようで、通常は丸く、時折星型だったりハート型だったり、厚かったり平かったりする。チョコレートでコーティングされたものや、ジャムが入っているものもあるが、いずれも生姜とクローヴの風味が確かに感じられるはずだ。パウダーシュガーに覆われたフルーツブレッド、 シュトーレンStollenも試してみるといいだろう。そしてあなたは、満腹感、幸福感とともに、手工芸品やお土産を探しに再び歩を進める。

おめでとう!これであなたも、少なくとも頭の中では、ドイツのクリスマス・マーケットを訪れる年間8500万人(ベルリン・ドイツ外務省調べ)のうちの1人だ。この体験を楽しんだならば、近郊のテュービンゲンで催されるチョコレート・マーケットを訪れてみるといい。チョコレート・ビールやチョコレート・ピッツァを味わうことができる。ルートヴィヒスブルクのバロック・マーケットも一見の価値がある。二つの教会が優美に照らし出され、そのそばでは、雪に覆われた屋台の上を「光の天使」が舞う。ああ、楽しいクリスマスがやって来る!
(文:アウロラ・リオス、訳:広瀬航太郎)

*ドイツのクリスマス・シーンに典型的な木彫りの人形で、中にお香を入れて焚くことができる。