おいしいものを食べると、誰かに伝えたくなる。では、何を使って伝えるか。口頭であっても、SNSであっても、画像だけでは伝えきれない。そのとき我々が用いるのは言葉だ。

ただ食べ物の画像を見せて料理の名前を言うよりも、「ジューシーなステーキ」「なめらかなプリン」などと伝えた方がより相手の食欲をそそるだろう。そんな、「おいしいを感じる言葉」を「シズルワード」という。
 
シズルとは、口に入れる前に感じる匂い、音、見た感じのことだ。それを言葉に落とし込むと、おいしさの感覚を伝えることができる。
 
株式会社B・M・FTでは、毎年シズルワードに関する調査をしている。味覚系・食感系・情報系の三つに分類した約3‌0‌0語について、各世代の男女を対象に行うものだ。
 
調査結果によると、人々がもっともおいしさを感じる言葉は食感系の「もちもち」だ。この言葉は2‌0‌0‌3年にミスタードーナツがポン・デ・リングを発売して以来長期的にブームである。現在では「もちもち」というとパンを連想する人が多い。
 
「もちもち」に次いで人気なのが同じく食感系の「ジューシー」。味覚系では「うまみのある」、情報系では「焼きたて」がトップである。
 
ここ最近のトレンドは「贅沢な」「絶品」などだ。B・M・FTの澁澤文明さんによると、今の贅沢は数十年前のものとは違う「プチ贅沢」だという。このプチ贅沢の流行が、シズルワードのトレンドからも読み取れる。
 
おいしさを感じる言葉は年代や性別によって差があり、好まれる食べ物の傾向もわかる。一般的に女性の方が言葉からおいしさを見出す傾向にあり、「男性の方が視覚的なのではないか」と澁澤さんは話す。
 
家族の食材を選ぶ人が多い40代以上の女性には「採れたて」「厳選素材」といった言葉が人気だ。一方、働き盛りの男性は脂ののったガッツリ系の食べ物を連想させる言葉に魅力を感じる。
 
10代や20代の若い世代では、男女ともに甘いものを好む人が多い。それに加えて、男性は辛さを押し出した言葉にも惹かれやすい。女性は「栄養たっぷり」「しあわせ」などの言葉においしさを感じる。
 
商品名やブランド名そのものにもシズルワードは使われる。昔からある例では「ガリガリ君」、最近では「クロッカンシュー ザクザク」や「シャキシャキレタスのサンドイッチ」などだ。特にコンビニやスーパーのプライベートブランドでは、商品を表す固有名詞の代わりにシズルワードが使われている。
 
SNSやネットに載せる情報としても、シズルワードは非常に有効だ。投稿型レシピサイトでは、「濃厚」などの言葉がついた料理名が目立つ。澁澤さんは、「シズルワードを使えば『おいしそう』を共有できる」と話す。
 
おいしいものを人と共有するとき、綺麗な写真で視覚にうったえることは大切だ。しかし、言葉選びも意識してみてほしい。言葉には、画像だけでは伝わらないたくさんの「おいしい」がつまっている。
(新山桃花)