平成が始まった時、日本はバブル景気に沸いていた。株価や地価は急上昇し、製造業を中心とする企業は世界を席巻。他国との貿易摩擦が繰り返し起きたが、それは経済力の強さの表れでもあった。この日本の成功の裏に、終身雇用や年功序列、労使協調といった日本的雇用慣行に支えられた集団的雇用管理があり、世界的に注目された。会社のために長時間働く労働者の姿勢もまた高く評価されたのだ。
しかし間もなくバブル経済が崩壊すると、状況は一変する。銀行の不良債権やデフレ、少子高齢化など様々な問題が噴出し、経済の長い停滞とそこからの脱出を模索する時代となった。国際競争力の低下が叫ばれる中、かつて賞賛された日本的雇用慣行も批判されるようになり、特に長時間労働とそれに伴う生産性の低さが問題視された。
そして平成が終わろうとしている今、状況はどのように変化しているのだろうか。まず労働時間については、1989年の2088時間から昨年には1713時間に減少し、OECD諸国の平均である1763時間を下回った。一見すると、もう日本はそこまで長時間労働の国ではないと思われる。しかし、実態は違っていると慶大商学部の樋口美雄教授は言う。労働時間の減少はパート労働者の割合が増えたことが主因で、正社員の労働時間は2000時間前後のまま変わっていない。
では、なぜ正社員の労働時間は思うように減らないのか。これには、過去の日本の成功体験が関係していると樋口教授は語る。戦後の昭和における急成長は、労働者が長時間一生懸命に働いた結果であり、逆に労働時間の減少は競争力低下を招くのではないかという懸念が強く残っているのだ。
しかし平成に入ると、それまでの働き方の弊害が大きくなってきた。労働者が長時間をいとわず働いてきたのは、それが企業業績の拡大や賃金増に結び付いて自分に返ってくるからだった。しかしバブル崩壊以降、長引く不況で賃金は伸び悩み、その日の仕事に追われて健康を害する人も増え、労働者の働きがいは徐々に失われていった。
その結果、日本の生産性は低いままとなっている。特にサービス業の生産性が低く、全体でもOECD平均を下回る状況が続いている。日本のサービスは高い質を特徴としているが、その質に見合った対価を得られていないことが原因にあると言われる。無駄な仕事を見直し、良いサービスに見合う料金をとれる体制を作ることが解決策の一つとなるだろうと樋口教授は言う。
今年に入って政府が働き方改革を発表した。この改革では残業規制や非正規雇用の待遇改善など、労働者のモチベーション向上や高い生産性の実現が目指されており、働き方への関心が急速に高まりつつある。新しい働き方としては、時間や場所にとらわれずに働けるテレワークが注目されている。これは通勤時間を省き、育児をする女性にも大いに活用できると期待されている。労働力が限られる中、柔軟かつ自律性を尊重した働き方で一人一人の能力を引き出すこと。これが今求められていることだと言える。
(根本大輝)