公開前から過激な性の演出が話題を呼んでいた劇団四季の新作ミュージカル『春のめざめ』。その内容には思春期を生きる若者達へのメッセージが強く込められている。ブロードウェイでは若年層の圧倒的な支持を得たが、日本ではどうなるだろうか。
(甲浩子・大熊一慶)

「春のめざめ」の一場面
「春のめざめ」の一場面

☆ 女子学生の視点

これが劇団四季? 性、妊娠、自殺、同性愛…。「ミュージカルの歴史を変える圧倒的な衝撃」ポスターに書かれている事に偽りはなかった。
劇団四季というとキャッツやライオンキングを思い浮かべる人も多いだろう。どれも親子一緒に楽しむエンターテイメントというイメージが強い。しかし、これはどうだろう。もちろん親世代の方々にも是非見てもらいたい作品ではあるが、正直なところ一緒に見るのは躊躇する。
過激という表現は適切でないかもしれない。思春期の行動や感情を包み隠さず、素直に表現しているだけ。ただ、今までこんなにもストレートな物を見たことがないために、衝撃を受けるのだろう。
脚本が作られたのは約100年前のドイツ。閉鎖的、封建主義的な社会であり、現在とは状況が異なる。それでも、思春期を取り巻く環境の根底は変わっていない。いつの時代でも、どんな場所でも、思春期は普遍だ。葛藤の連続であり、「大人」に対し反発の気持ちが強い。
舞台は19世紀でありながら、曲は現代のロック。そして出演者も同世代の若者。曲が流れ出したとたん、マイクを取り出し、感情を爆発させる彼らには、どこかすがすがしさを感じた。世界各国の若者に共感された作品であるというのにも頷ける。
「思春期」と「大人」の狭間に位置している私達は、この作品を、若者目線からも、大人目線からも見れる。社会の理不尽さを感じつつも、それをどこかで受け止めてしまっている。両者の感情が分かるからこその作品の楽しみ方があると思う。

★男子学生の視点

「世界中を変えてやろう。世界中をロックで揺さぶってやろうと思って脚本・作詞をした」
『春のめざめ』の脚本家であるスティーブン・セイター氏はこう語る。その言葉通り、『春のめざめ』は間違いなく世界を揺さぶるミュージカルだ。
思春期の若者たちが抱える性や大人達との関係に対する不安、悩み、葛藤が赤裸々に描かれており、全てが舞台上で入り乱れ、ぶつかり、爆発する。
性描写があまりにストレートなので、最初は「舞台でここまで大胆に表現する必要があるのか」という違和感を抱いたほどだ。だが、物語が終盤に進むにつれて不思議とその違和感は薄らいでいく。むしろ舞台でなければ、直接的な描写でなければ、作品が内含する真意は伝わってこなかっただろうとさえ思う。
原作は約100年前にドイツで脚本されたもの。しかし、作品の持つメッセージは現代の日本社会に生きる若者の心にも確かに響くものがある。思春期の世代、思春期を経験してきた世代ならば、登場人物たちの言動に思わず頷いてしまうシーンもあるはずだ。実際、私も舞台上の俳優に自分自身を重ね合わせてしまうことが何度もあった。
ブロードウェイでは若者たちの間に口コミで話題が広まり、絶大な支持を得て、リピーターが絶えなかった『春のめざめ』。日本ではどうなるだろうか。
今までの劇団四季のミュージカルとは毛色が違う。繰り返し観たい作品というよりは、作品を観劇した人と繰り返し話を交わしたい作品であるように思えた。