夏が終わった。リアルが充実しようがしまいが、蝉が鳴き太陽と入道雲が輝く季節は通り過ぎ、月明かりの下コオロギの鳴く秋の夜長が訪れる。
コオロギといえば、コオロギラーメンをご存じだろうか。実は今、じわじわと注目を集めている一品だ。前回のサイダー企画のトラウマを持つ所員たちが何かと理由をつけて辞退する中、期待と不安半々の3人の所員がベールに包まれたそのラーメンを調査した。
都内某駅の改札で待っていると、昆虫が描かれたTシャツを着た一人の男性が現れた。この方こそコオロギラーメンの仕掛け人、篠原祐太さん(商4)である。篠原さんは日夜昆虫をはじめとした生き物の採集や飼育を行い、美味しく食べられる方法を研究する塾生だ。この日、篠原さんの自宅にお邪魔し、調理工程を見せていただいた。
出してもらったスポーツドリンクに所員Nが一言、「濁ってるからこれも虫の何かかと思った」。考えすぎである。
まず、乾燥コオロギをふんだんに使って出汁をとる。原形そのままのコオロギが油で炒められる様子に、本当に虫を使っていると実感する一方、意外にも食欲をそそる香ばしい匂いがする。不思議なギャップにとまどう所員をよそに、コオロギは湯に入れられて煮えていく。
出汁をとる間、篠原さんにお話を聞いた。篠原さんは幼少期から生き物が好きで虫を食べることも抵抗がなかったが、大きくなるにつれて周囲とのギャップに苦しんだ。だが国連食糧農業機関が食糧難の対策として昆虫食を推奨する報告書を発表したことで、世の中に役立つ可能性を見出し、打ち明けられるようになったそうだ。
昆虫食というテーマの中で篠原さんはケータリングや虫取りツアーなどの活動を行っており、中でも最も手ごたえがあるのがラーメンだという。ラーメン凪と共同で約2年半前から試作をはじめ、限定販売を行ってきた。7月末に矢上キャンパス食堂での販売も実現し、用意した約75食が完売するほど好評だった。
さて、話をするうちに出汁は取れ、完成したコオロギラーメンをアツゥモリィ! なうちにまずは所員Sが一口。「おいしい」とだけ口に出す。小学生並みの食レポなので解説すると、魚介系にも豚骨系にもない味で、あっさりとまろやかな味がする。アクセントになっているのがコオロギ特有の香り。虫の持つ香りは種類によっても違う。「野生の味」と所員Hはコメント。細麺や太麺、つけ麺といった複数のスタイルで実食し、すさまじい速さで箸を進める所員N。昆虫食という先入観を180度覆す味に一同驚いた。
篠原さんは昆虫食のネガティブなイメージを覆していきたい、と語る。しかしそれは食糧難対策や栄養という観点だけではない。美味しさを追求し身近な虫を自分で捕り、食べたことのないものを食べるわくわく感を大切にしたい気持ちを強く持っていた。
私たちはこの夏、常識を覆す新しい扉を開いた気がした。虫が当たり前のように食べられる日は、もしかしたら近いのかもしれない。
(メンヘラ将軍)