あなたが最後に本を読んだのはいつだろうか。そう問われて言葉に詰まる学生が増えているように感じる。全国出版協会が発表した出版指標によると、昨年度の出版物の売り上げはピーク時の約20年前に比べて約40%減。書店の数も、特に個人経営の独立店の減少が目立ち、ピーク時より約8000店減と、総じて現在出版業界は厳しい状況にあるといえる。出版業界や書籍はどう変化してきたのか、これからどうなっていくのか、日本書籍出版協会の樋口清一氏に話を聞いた。
樋口氏によると、出版物の売り上げ減少の要因として、まずインターネットの登場があるという。情報源としてのネット利用が日常化した上、余暇の時間が本ではなくネットに多く割かれるようになった。また、図書館貸出数の増加やブックオフなどの新古書店、漫画喫茶の増加も一因である。本に親しむ機会が増える一方で新刊販売数が貸出冊数を下回るなど、書籍の売り上げに影響を与えていることは否定出来ない。若年層の読者の減少も要因である。
こうした中、近年登場したのが電子書籍だ。しかしその売り上げは、紙媒体の落ち込みをカバーするまでには至っていない。日本では電子書籍の75%を漫画が占め、学術専門書などでは漢字、図、凝ったレイアウトなど電子化する上での困難は多い。加えて、画面上の色は元の色とは異なるため、絵本の電子化には否定的な見方が多いなど、分野間で隔たりも存在する。しかし、携帯性や文字サイズの変更可能性など利点もあり、今後デジタル教科書世代が幼い頃からデジタル媒体に慣れ親しむことで新たな展開も期待できる。
しかし、「紙の書籍」ならではの魅力は間違いなく存在する。手触り、しなやかさ、紙の匂い、読み込んで付いた手あかの汚れや使用感は、紙の書籍だからこその味わいである。「本という物体に対する愛着と魅力がある限り、紙媒体がなくなることはない」と樋口氏は言う。本屋で思いがけず新たな本と巡り合う高揚感は実際の書店と紙書籍でないと得られない。
出版は今後どのような道を進むのだろう。かつては本が全ての文化のチャネルであった。しかし今は情報や思想の源は多種多様である。本でなければ得られないものとは何か、今私たちはその問いに直面している。
こうした中で、ただ本を出版し販売するだけではない新たな取り組みも始まっている。カフェの併設、読み聞かせや本にまつわるコミュニティの形成など、本屋を介して人と人が繋がろうという動きだ。「こうした本や本を通した癒しの場所によって豊かな文化が残っていく」と樋口氏は語る。
「本は昔の人の英知が詰まって、継ぎ足されてきたもの。どの一冊からであろうと深い道が続いている」。本は一冊読むと興味関心がわき、また次の本へとつながっていく。入口は広く、その奥は深い。形態が変わっても、魅力溢れる本の世界は今も昔も変わらずあなたが足を踏み入れるのを待っている。
(竹前美春)