「療育」という言葉を知っているだろうか。自閉症などの発達障がいをもつ子どもが、社会的に自立できるよう手助けする治療・教育のことだ。この分野に日々向き合う現場がある。特定非営利活動法人ADDS共同代表で、塾員でもある竹内弓乃さんに話を聞いた。
 
自閉症とは先天的な脳の障がいによるもので、68人に1人いるといわれている。症状は様々で、人との距離の取り方が苦手、こだわりが強い、言葉の理解や表出に遅れがあるなどが例としてあげられる。その症状を改善し、成長の可能性を見出していくのが療育だ。
 
竹内さんを療育の現場へと引き付けたきっかけは、塾生会館入口にある共済部の一枚の張り紙だった。アルバイトとして自閉症をもつとある幼い男の子の療育を受け持つことになったのだ。右も左も分からなかったが、療育に詳しいその子のお母さんと共に奮闘した。週に数度その家庭に通う内に、男の子は少しずつ成長していった。月曜に言えなかった言葉が、金曜には言えるようになる。そのような子どもの成長が眩しかった。療育がもたらす可能性に触れた瞬間だった。
 
この出会いを機に、竹内さんは心理学専攻へ進み、大学4年のとき、ゼミ仲間数名とADDSの前身となる、自閉症児を支援するサークルを設立した。院に進んでからも療育に関する分野を学び、卒業後、法人化を決めた。

ADDSでは、子どもの発達に合わせ課題設定表を作成し、一つ一つ達成していくことで療育を進めていく。例えば机を前に子どもに積み木を渡し、「上に置いて」と伝えその反応をみる。家庭でその課題に取り組み、達成度を保護者が報告し専門家が細やかなアドバイスをする。子ども、保護者、専門家の三者が関わり合うことで子どもに合った長期的な療育を提供することができるのだ。最近ではADDSが作成したプログラムをパッケージ化することで、各地へこの方法を広げている。

発達障がいは、誰しもが持っている個性や特徴が顕著に表れていることにすぎない。そう竹内さんは語った。だからこそ自分と線引きせず発達障がいをより身近に感じてほしいという。

先日、療育を知るきっかけとなったその男の子に会う機会があったそうだ。「大学のキャンパスで会ったらごく普通に友達になりたいと感じるような、そんな素敵な青年に育っていた。本当に感慨深いものがあります」

適切な支援さえあれば、みな成長することができる。竹内さんの優しい笑顔が、療育と成長の可能性すべてを物語っている気がした。
(青砥舞)