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【論説】今後の義塾発展の責を負う者よ 納得のいく説明を教職員・塾生に

3教授の資質を考える

教職員投票の結果を覆すほど、候補者間に差があるのか。我々はまず、関係者から入手した投票上位3名(細田氏・長谷山氏・岡野氏)の略歴、所信表明を見比べた。研究実績の面では岡野氏は目を見張るほどだったが、所信表明では長谷山氏は前常任理事の経験からか一部具体的な数字を用いて述べていたものの三者の間に優劣をつけるほどの差異は感じられなかった。この資料からは2位であった長谷山氏を取り立てて選任する理由を見つけられなかった。

銓衡委員会・評議員会の不透明さ

塾長候補者を最終的に審議する銓衡委員会・評議員会の議事録は公開されておらず、銓衡委員会の構成員が誰なのか、完全には明らかになっていない。

早稲田大学総長の選出は学生が関与できるうえ、教職員の投票により最終決定する。早稲田大学のような「開かれた」印象の強いこの制度に比べれば、慶應は「閉ざされた」ものだといえるだろう。

守られ続けてきた慣例

取材した複数の大学関係者は、77年~93年まで塾長を務めた石川忠雄氏の退任時の話を口々に語っていた。石川氏は、任期末に再選を目指した際、教職員投票で2位となった。長年にわたり塾長を務めた石川氏は学内で推す声が多く、銓衡委員会が石川氏を推薦する可能性があった。石川氏は義塾が混乱することを恐れ、1位だった鳥居氏に「君やりたまえ」と声をかけることで身を引いたという。こうして慣例は守られ続けてきたのである。

「永久政権」の誕生か

慣例が破られた今、次回以降の塾長選出時に自らに近い人物を投票で3位までに入れることができれば、前塾長の力の及ぶ銓衡委員会、評議員会を経ることで塾長に選出することができる。現執行部の常任理事には前執行部の常任理事が半数近く就任しており、次回の塾長選出の際も、今回と同じような事態が起きるのではないか。

そうすれば、塾長・執行部に同派閥の人物が就き続ける「永久政権」が生まれ、風穴が空くこともなく必要な変革も行われなくなるのではないだろうか。

上がってきた声

この状況下で、学内での立場が脅かされることを恐れず教職員の中で既に声を上げている人もいる。銓衡委員会の結果を漏れ聞いた人たちは署名を、評議員会での承認ののちには説明を求める質問書への賛同を教職員全体に求め、集約したものを塾に提出した。ともに総数は1‌0‌0を超えたが、今月2日時点でまだ義塾からの反応はないという。

この数のみを見れば決して教職員の大多数とはいえないが、事実として塾長に不信感を抱く教職員は少なからず存在する。これからの新塾長の業務に少なからず支障が出る可能性は否めない。

説明責任を問う

ここまでこの塾長選挙に向き合ってきた今、我々も声を上げたい。教職員投票の結果とは異なる結論を出した銓衡委員会は、説明をするべきではないだろうか。

銓衡委員会や評議員会について、義塾からは「会議、議事録は非公開だ」、「手続きは規約に反していない」という説明を受ける。仮にそうだとしても、1位の者が選出されてきた慣例を知る教職員にとっては到底納得できるものではないだろう。そして塾生である我々も、この受け継がれてきた制度と慣例、そして9年前の清家氏の所信表明、7年前の執行部が示した「選挙の結果をそのまま尊重するのが原則でなければならない」という方針を知った今、結果と突き合わせると不信感をぬぐうことができない。そもそも、7年前の文書作成に関わったのは当時の塾長の清家氏、そして現塾長の長谷山氏なのだ。

現状では、選出した義塾と結果を受けた教職員とのコミュニケーションが不十分に思える。我々塾生を含め、関係者以外の者はその選出過程を知る由もない。この新塾長を、皆が何の疑念もなく「われらが母校」慶應義塾のトップとして誇れる日は来るのか。そこには、頑なに繰り返す言葉ではなく、皆が納得できる言葉が必要だ。

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