関係者の声
大学関係者Aは、教職員の意見を反映している投票の結果を、評議員会や銓衡委員会はどのように参考にするのか、どのような議論をするのかが不透明であることに疑問を抱いている。A氏自身も週刊誌でしか知ることができないことは、いかがなものかと主張する。
大学関係者Bは、長谷山氏を支持している。清家氏の路線を基本的に継承し、科学技術部門だけでなく、人文科学系を重視しているからだ。しかし今回の決定に対して、大学側から説明が一切なく、また銓衡委員会や評議員会の議事録も公開されていないため、B氏は大学側に説明を求めている。大学側から説明がないことは、大学に対する不信感を生みかねない。大学側とのコミュニケーションを図っていくつもりだという。
大学関係者Cは、教職員が慎重に出した結果である得票数を、審議内容が公開されていない外部機関によって覆されたことに疑問を呈する。民衆の総意をくみ取るシステムとしての民主主義が慶應義塾から消えてしまったと語る。C氏を含む関係者らは、銓衡委員会で長谷山氏の選定が決定してから臨時評議員会が開かれるまで、撤回を求める緊急署名を集めた。40時間で集まった署名は107名分だった。
また、先月20日、26日に質問書を135名分の署名とともに提出したが、慶應義塾側からの反応はまだ無い。
塾長の選任を行った臨時評議員会に出席した複数の評議員も、今回なぜ慣例が破られたのかを説明してほしいと語る。
前執行部の理事、半数近くが重任
先月25日開催の評議員会で、10名の常任理事が決定した。常任理事は「塾長を補佐」し、塾長が分掌した塾務について慶應義塾を代表する重要な役職だ。新執行部の常任理事のうち、渡部直樹氏、國領二郎氏、駒村圭吾氏、岩波敦子氏の計4名は、前執行部で常任理事だった。
記録でたどることのできる1960年以降の記録を調べたところ、半数近くの常任理事が重任した例は無い。新塾長の長谷山氏も、清家・前塾長の下で8年間、常任理事を務めている。広報室によると、常任理事の制度が始まった1929年以降、前執行部で常任理事だった者がそのまま塾長になった例は無いと回答した。複数の大学関係者が、このことに対し異例だと語る。
9年前の清家氏の所信表明
塾長候補者推薦委員は、教職員投票前に「第2次塾長候補者選出のための資料」が配布される。資料には、第1次塾長候補者の略歴、候補者としての所信表明が掲載されている。
清家氏が塾長に決定した2008年の選出の際、清家氏は所信表明の文中で「塾長、執行部の任期を予め限定し、次の塾長、執行部への円滑な継承を図ることが望ましい」と述べている。つまり、執行部である常任理事の任期を予め限定するべきと少なくとも9年前までは考えていた。
前塾長が決める評議員会議長
今回、教職員投票で過半数の票数をあげた細田氏が塾長に選出されなかった。これは、銓衡委員会や評議員会の組織的問題が大きな原因であると考えられる。
大学関係者Dや評議員Eによると、評議員会議長は塾長が決める慣習が存在すると語る。「慶應義塾長候補者銓衡委員会規則」第3条によると、評議員会議長が銓衡委員会議長を務めることが明記されている。また、銓衡委員のうち14人が教職員評議員を除く評議員から選ばれる。E氏によると、その選出は評議員会にて議長が、「評議員により選出される銓衡委員は慣例により議長が選出する。異議はございませんか」と聞き、参加者が「異議無し」と答え承認されたと語る。
つまり、塾長選出にあたり前塾長は、評議員会議長、銓衡委員会議長を慣例や規則により直接決めることができ、半数の銓衡委員を間接的に決めることができる。
評議員会の様子
今回、一部の大学関係者の間で出回っているとされる非公式の評議員会の議事録を入手し、評議員にも事実の確認を取った。なお、銓衡委員会は箝(かん)口令が敷かれているため、当日の会議について証言を得ることはできなかった。
文書から分かった評議員会の内容は、果たして建設的なものだったのか甚だ疑問に残るものだった。
例えば、銓衡委員を務めた人物が、学部内から銓衡委員会で出された結論に対する不安の声が出たことを発言しようとした際、議長は「銓衡委員会でなぜ意見を言わなかったのか」と何度も発言を制止しようとしたという。この意見は銓衡委員会の結論を受けたうえでの反応であるため、銓衡委員会の中では伝えることができない。議長の発言は不適切だと考えられる。
また、教職員投票で1位だった細田氏が、自身が過半数の選挙人から票を獲得したことについて触れると、某常任理事が全投票数(注・選挙人は450人だが、連記が認められているため票数は790票)から算出した割合を提示し過半数ではないと詭弁を弄した。
銓衡委員会の結論に対する反論が続いたが、ある評議員が銓衡委員会の結論を支持する意見を述べた直後に議長が意見に対する謝辞を述べ、決議した。
その他の意見
A氏は、3人を選ぶ際の選挙スケジュールが短すぎると考える。「現制度では、候補者の所信表明に対して質問を投げかけることは難しい」と語る。
また、D氏は塾長の年齢も今後の慶應に影響があるのではと考えている。現在長谷山氏の年齢は64歳であり、仮に2期塾長を務めたとすると72歳になる計算である。このことは慶應の執行部に若い人材が育ちにくい原因になるのではないかと危惧している。