「キンコンカンコーン」。チャイムと聞いて一般的に思い浮かべられるのは、このウエストミンスターの鐘の音か。
しかし、我らが慶大の日吉キャンパスのチャイムの音は違う。受験の時、初めて耳にする音に驚き、チャイムだと理解するのに時間がかかった人も多いのではないだろうか。
耳に残るようで、残らない、独特なメロディー。果たして、この旋律はどこからきているのか。「日吉のチャイムの謎」について迫った。
そもそも私たちが小学校などで慣れ親しんできた「キンコンカンコーン」というチャイムの音は、1950年代の半ば以降に日本で普及し始めたものだ。それまでは、「ジリリリリ」という災害時になるようなベルの音や、「ブー」という劇場の開幕前の合図と同じブザー音が主流だった。(今でも慶應普通部は、このブザー音を使用している)。諸説あるのだが、「キンコンカンコーン」というメロディーをつくり、日本で最初に使用したのは大田区立大森第四中学校であると言われている。当時、それまで使用していた振鈴を告げるベルが故障した際に、少しでも楽しい音に変えようと、ビッグ・ベンの音を参考に作られた。
日吉のチャイムが現在の音に変わったのは、1993年の9月のことだ。それ以前は、12時半には塾歌、16時半には丘の上が、授業の始業と終業の合図にはブザー音が使用されていた。当時は電子音ではなく、塾歌と丘の上はオルゴールのような装置、ブザーも実際のブザーから出る音を振鈴として使用していた。
では、なぜ今現在のメロディーになったのか。結論から言ってしまえば、特に理由はなく、あのメロディーにも曲名はない。現在三田キャンパスで使われているチャイムは、塾歌のメロディーが採用されている。しかし、日吉のチャイムは慶應のカレッジソングから来ているわけではない。
1993年に行われた授業用ブザー変更工事は、チャイムを全て電子音に切り替えるというものだった。業者に工事を依頼し、4~5種類のメロディーが提案された。その中から一番耳あたりのいいものを選んだ結果が今の日吉のチャイムなのだ。慶應と関係のある音ではなかった。
日吉キャンパス事務長の栗谷氏は、「チャイム音全塾統一という考えはおそらくないだろう」と言い、意外なことに塾はあまりチャイムにこだわっていないようだ。
曲名も、塾との関係も何もなかったメロディーだったが、20年以上、塾生に時間を伝え続けてきたそれは、今や立派な「日吉のチャイム」。受験生には聞きなれないかもしれないが、卒業してから「懐かしい」と振り返る日が来るのかもしれない。
日吉のチャイムが今の電子音に変わる以前に使われていた装置は、現存するが、劣化してしまい作動しない。残念なことに修理出来る人も、もういない。手作りの機械が奏でていたカレッジソング。その音色が日吉の丘に流れるのも一度は聞いてみたいものだ。
(山本理恵子)