総合政策学部と環境情報学部の学生が中心に在籍する湘南藤沢キャンパス、通称SFCは、その先進性において他キャンパスとは一線を画する異色のキャンパスだ。

その特徴は、たとえばメディアセンター(いわゆる図書館)にもよく表われている。入館すると、入口脇のスペースには見慣れない機材と、何やら熱心に作業している学生たちの姿に気が付くだろう。このメディアセンターには「ファブスペース」と言われる空間が設けられていて、3Dプリンターやレーザーカッター、3Dミシンなど、デザインを学ぶ学生が重宝する機材が完備されているのだ。驚くことに、塾生であれば誰でも自由に利用することができるという。3Dプリンターが一般の学部生に開放されているのは、日本国内で唯一、慶大だけだ。

SFCでは、これらの機材を活用した授業が豊富に展開されている。来年度の新入生にお薦めするのは、田中浩也教授が担当する、秋学期開講科目の「デザイン言語実践」という授業だ。

この授業では、3Dプリンターの扱い方を学んだ上で、実際に学生自身が作品を創り上げていく。大人数の授業だが、4人前後で一つの課題に取り組むグループワークを取り入れており、この日もファブスペースでは数人の学生が楽しそうに製作に励んでいた。今回の課題は「2020年の東京オリンピックで応援グッズとして使用できる楽器」の製作だという。各グループが独自の「コンセプト」に沿ってデザインしたユニークなアイデアは、聞いているだけで心が弾んだ。

「既存の製品のありがたさに気づく」。授業を通して何を得られたか問うと、学生の一人がこう答えてくれた。家の中を見回してみると、たくさんの製品に溢れていて、それぞれが様々な形状をしている。そのどれもが使いやすさや用途に合ったデザインになっていることを、私たちは特段意識せずに使用しているだろう。しかし実は、すべての製品は誰かによって創造されたものなのだ。モノづくりを体験して、初めて得られる気づきである。

モノづくりに必要とされるのは、まだ世の中にないものを創る力。履修者に求められると同時に、半期の授業を通して鍛えることのできる素養だ。過去には他学部の学生が履修していたこともあるという。SFCの学生はもちろん、来年度の新入生諸君は、その柔らかな発想力を以て湘南の地に乗り込んでみてはいかがだろうか。
(石田有紀)