「日本を好きになったきっかけは、日本人の電車に乗る際の姿勢でした。3列にきれいに並んで、降りる人を待ってから乗る。それを当たり前にできるところに惹かれましたね」
そう言って、大きな瞳を輝かせたのは、カナダ出身のカルメン・ラムさん。現在、義塾に留学しているブリティッシュコロンビア大学の3年生だ。
彼女はアジア研究を専攻している。特に民族誌学で学んだ日本の文化社会には、新鮮な驚きを感じたという。日本の社会システムにはじまり、古来の伝統から少女漫画、ビジネスとしての水商売の存在についても勉強した。「人種や地域ごとに、グループができやすいカナダに対して、日本は単一民族の国。まとまっているのに、強い個性があるところが面白いです」
日本について、知れば知るほど、日本人が時代とともに生み出す流行にも、着目するようになった。
「アメリカ発祥のブランドが本国よりも日本で人気の出ることがありますよね。そのメカニズムを調べていきたいです」
日本で売れる外国ブランドには、日本人が魅力を感じる要素がふくまれているはずだ。日本のファッションが大好きなカルメンさんは、日本のマーケット向けに作られた商品の背景を探って見たいと語る。常に移り変わる流行も、現在進行形の日本の文化だ。
カルメンさんは、語学を勉強するのが好きだという。実は彼女は、カナダ育ちの中国人。英語はもちろんのこと中国語や韓国語、日本語の習得にも、力を注いでいる。語学の上達によって、他国の人と話し、その国のメディアに触れることを、彼女は純粋に楽しんでいるのだ。
「言語を学ぶことで、その言語独特の表現を発見したいです。例えば、日本語の『甘え』という言葉と同じ意味を持つ単語は、英語には存在しません。調べてみれば、言語ごとに特別な意味をもつ言葉が、あるはずです」
カルメンさんの夢は、人類学者になることだ。日本の人々とその営みによって生まれていく文化を研究し、本で発表していきたいそうだ。
「日本語にしかない独特なニュアンスを、世界に発信してみたい」
日本の数ある大学の中で、義塾に留学することを決めたのも、学者になるために大学院への進学を意識していたからだ。
「義塾の大学院は、人類学の授業が豊富であると知って、ぜひ留学したいと思いました。さらに日本語の能力を上げないと、難しいかもしれないですけど、挑戦したいです」
カルメンさんは、人類学を学ぶという目的を見据えながらも、好奇心を指針に、研究材料を探り続けている。その関心の先は、語学から民衆の文化まで幅広いが、全ては彼女の夢につながっているのだ。近い将来、カルメンさんの瞳は、日本社会の新たな側面をとらえるに違いない。
(佐々木真世)