昨年12月16日、日吉記念館にて、慶大バドミントン部が一人の外国人選手による講習会を主催した。元マレーシア代表、現在も現役として日本のリーグでプレーしているリーワンワ選手による講習会だ。全英オープンで二度準優勝し、またアテネ・北京と二度五輪に出場した経歴をもつ、紛れもなく世界トップレベルの選手である。一流の技術、さらに一人一人への丁寧な指導に部員一同は深く感銘を受けた。
このような世界的選手を招いての講習会を開いたバドミントン部だが、「名門」が連なる慶大体育会の多々ある部のなかで、バドミントン部について知るものがどれ程いるだろうか。確かに現在、部は男女ともに関東大学リーグ3部に所属し、目立つ存在とは言い難い。しかし五月女監督は言う。「この立派な講習会が開かれたのは決して偶然ではない」
かつて慶大は関東大学リーグ1部にて常に上位を争う強豪だった。それがいつしかチームの志向は「落ちないように」と後ろ向きになり、過去20年で順位を徐々に落としていった。そして2004年には男子が、2006年には女子が、4部にまで降格した。4部にいた頃を経験している渋谷康太現主将(商3)は当時の様子をこう語る。「全学年合わせて5人しかいない時期もあり、精神的にもとてもつらかった。リーグでも2位が続いたりと、チーム全体で何かが足りなかった」
ところがあるときを境にチームは変わり始める。その契機は部の目標を「早大に勝つ」としたことだった。早大は1部で活躍を続け当時の慶大にとって遠い存在だったが、目標を高く定め、達成するために何が必要かを個人が考え始めたことがチームに変化を呼んだ。過去の栄光も周囲の評価も関係ないと思うようになった。そして2007年、慶大は男女ともに3部昇格を決めた。特に男子はほぼ完全な勝利で4部を優勝。しかし優勝決定の瞬間も笑顔を見せる部員は一人もいなかった。早大に勝つまでは全て通過点に過ぎない、その高い志がチームを支えていた。高橋千怜さん(経3)は昇格について「個人を尊重していたチームに団結力が生まれた。それが一番の財産」と当時を振り返った。
そして今、チームはその気風を保ち上昇気流の真っ只中にある。勢いは多くの人を集め、試合では男女部員、また多くのOBが力強く声援を送る。さらには慶應小中高と、「慶應」の縦のつながりの強さも今のバドミントン部を支えている。最近では合同練習会というイベントを開き、慶應に限らず多くの若い世代が交流する場を設けている。「他人と話すことはコミュニケーション能力を高める。我々は内外問わず、その様な場を多く提供したい。そうすれば周囲は自然と我々に興味を抱いてくれる。なにごとも種をまくことが大切なこと。ここ最近の部の復調も、今までまいてきた種の芽が出てきた、ということかもしれない」と五月女監督は話す。
男女ともにどん底を味わった。しかしだからこそ強くなれる。監督は「バドミントンが強くなることを糧にして、自信を持った人間に育ってほしい」と思いを語った。
「一流を意識する」という精神のもとでバドミントン部は現在も日々努力している。また競技だけでなく人として立派になることも目指している。ただ一つ、「早大に勝つ」そう思いながら。
(有賀真吾)