ギリシア古典の傑作オデュッセイアには青年テレマコスを助ける老人の姿が描かれている。彼の名は時代を超え、若者を教え導いてくれる師のことを表すようになった。メントルすなわちメンターがそれである。

メンター三田会は「良いアイデアを持ち合わせているにもかかわらず、その実現には不足しているピースがある」と感じている起業希望者に対して、それぞれの問題にあった支援をしてくれる団体だ。慶大の現役学生と卒業生であれば誰でも相談することができる。今回は同会が提供するエンジェル制度について事務局長の鈴木隆一さん(2006年卒)に話を聞いた。

2011年から始まったこの制度はビジネスアイデアの検証やプロトタイプの作成に対して資金提供を行うことを目的としている。創設当初は援助の上限額が100万円に定められていたものの、バイオテクノロジーやIoT分野での起業には多額の初期投資が必要とされることから、無制限で支援できるよう今年になって規約が改められた。

これまでにもベンチャーキャピタルのような起業家に資金提供をしてくれるところは存在した。メンター三田会のエンジェル制度が持つ独自性はどこにあるのだろうか。鈴木さんはその「ウェットな人間味」こそ他にはない強みだと強調する。一般にベンチャーキャピタルでは投資額を回収するために高いノルマを起業家側に要求することが多い。ビジネスとして運営していくために「ドライ」にならざるをえないのだ。一方、メンター三田会では起業家との人間的な関係を重視しており、その信頼に基づいて援助をするというスタンスを取っている。事実、慶應発として有名なあるベンチャー企業が快進撃を続けている裏には「社中協力」の精神に基づく塾員の資金援助があったと鈴木さんは指摘し、こう力説する。「メンター三田会には、上場企業創業者や大企業経営者が多数おり、ポテンシャルのある事業計画には本気の支援ができる体制を整えていきます」

これまでの起業は1段目のハードルが著しく高いものだった。そこで足を取られて転んだり、跳ぶことすらままならなかったりしたかもしれない。メンター三田会はこのハードルをできる限り低くし、ゴールへの道のりを平坦にしてくれる。起業に関して二の足を踏んでいるあなた。メンター三田会の存在を知った以上もはや困難を言い訳にはできない。あとはやるか、やらないかの違いだ。
(田島健志)