目の前にいる外国人に話しかけるとしたら、どのような言語を使うだろうか。外国人なら英語が通じるはずだと日本人は考えるかもしれない。しかし実際は英語を母語としない外国人も多く、通じるとは限らない。
横浜市では、漢字圏を除いた在住外国人向けに、「やさしい日本語」を活用している。「やさしい日本語」は外国人に災害情報を速やかに伝えようと用いられ始めたもので、阪神淡路大震災をきっかけに生まれた。行政における「やさしい日本語」の取り組みについて、横浜市市民局広報課の御園生さんと新谷さんに話を聞いた。
人口約370万人と規模の大きい横浜市では、160の国と地域からの約8万5千人の外国人が暮らしている。公的文書を全ての言語に翻訳できればよいが、金銭面や手間を考えると現実には不可能だ。そのため平成22年度から主要言語6か国語のほか「やさしい日本語」で情報提供を行う指針を定め、平成25年度には基準を作成して積極的に「やさしい日本語」を用いている。日本語の知識が全くないと厳しいが、文法や語彙をある程度知っていれば、情報を理解しやすくなるうえ、日本語の勉強にもつながる。
では「やさしい日本語」を使いたいとき、何に注意すればよいのだろうか。伝える情報を絞る、抽象的な表現を避ける、簡単な言い回しにするなど、ポイントはいくつかある。
だが、最も重要なのは、相手の文化に配慮して説明するということだ。日本で当たり前であっても、外国ではそうでないということが多い。例えば「実印」の場合は、どの国にも実印という文化があるわけではないため、「役所に印鑑登録したはんこ」などと表現する必要がある。「印鑑登録」が伝わらなければ、さらに詳しく説明する。相手の立場に立って考えることが大切であって、言い換え方に正解はないのだ。
「やさしい日本語」の考え方は日本人に対して情報発信するときにも応用できる。誰であっても、漢字ばかりの堅い文章では読みにくいと感じられ、冗長な文章であれば要点を絞ってほしいと思うものだ。相手を思いやってわかりやすく表現することは、日常生活でも役に立つだろう。
横浜市やその他研究グループは、「やさしい日本語」が広く認知されることを目指して活動している。難しい文を簡単な文に書き換えるシステムや、パソコン上で「やさしい日本語」を学べるコンテンツの開発も進んでいる。御園生さんは、「横浜市が取り入れたことが良いきっかけとなって、4年後の東京2020大会の時には全国に広まっているといい」と希望を語る。
取り組みはまだ始まったばかりだ。「やさしい日本語」が世界中から来た多くの人々にとって「優しい」存在になり続けることを期待したい。
(原科有里)
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