本年度、3月31日で定年退職を迎える商学部の表實教授にインタビューを行った。大学での担当科目は物理学、宇宙の科学である。
表教授は東京教育大学(現・筑波大学)大学院理学研究科にて理学博士号を取得。その後筑波大学物理学系で研究・教育に従事し、1991年から慶應義塾大学で教鞭を取っている。専門とする研究テーマは理論物理学。素粒子物理学や一般相対性理論を研究し、宇宙物理学も扱っている。
表教授は高校時代から物理に興味を持ち始め、大学に進んだ。今研究している分野に出会ったきっかけのひとつは、当時の時代背景にあるという。湯川秀樹や朝永振一郎がノーベル物理学賞を受賞し、その研究テーマが共に素粒子理論であった。そのこともあって、当時の学生の中で素粒子理論は非常に人気のある研究分野であった。表教授も自然の基本的構造を研究するこの分野に魅了され、是非チャレンジしてみたいと感じたという。
筑波大学時代の研究テーマの一つに、一般相対性理論で予言された重力レンズ効果がある。光が重力によって曲げられ、星が複数に見える現象だ。アインシュタインが「これが実現すれば宇宙の奇跡」と言ったこの効果は、1979年に観測で確かめられた。表教授は、物理学の発展を肌で感じながら、研究に没頭していったのだろう。
また大学時代からテニスが趣味で、今でも健康のために続けているという。テニスを通じて物理分野以外の人々との交流も多くなり、視野も広がると、その醍醐味を語ってくれた。
そんな表教授に慶應義塾で大学教授として講義することについて尋ねてみた。「慶應はもともと自然科学を重視する大学であり、それが明治からの伝統。福澤先生も『初学を導くに物理学を以ってす』とおっしゃっている。それゆえ文系の生徒に対しても、いかに分かりやすく教えるかをいつも考えている。例えば、ひとつひとつの結論が出てくるのに、どんな実験事実や観測事実があるかを説明し、結論に至る過程を話すことを心がけている」。慶應生の印象については、「能力的にバラエティーに富んでおり、スペクトルが広い。反応もいいし、ジョークも通じる。あえて何か求めるとしたら、他大学ともっと交流すること。他大学の良さを知り、他の世界を知ることによって、さらに視野を広げることができだろう」と語ってくれた。
表教授は退職後も別の大学で研究・教育を続けていくという。さらに、5年ほど前から五藤光学研究所と共同で続けているインターネット望遠鏡プロジェクトを、今後も進めていきたいそうだ。これは世界中に望遠鏡を設置し、インターネットを使ってリアルタイムで世界の夜空を観測しようという壮大な計画。府中とニューヨーク学院には設置済みで、今年4月にはミラノにも設置予定だ。「現在既に日吉の講義でニューヨークの夜空の天体を観測できるようになっているが、ミラノの望遠鏡が使えるようになる5月ころからは、24時間昼夜を問わず北半球の天体を、世界中の研究・教育の現場から観測できることになる。将来は、南半球にも望遠鏡を設置し、日本でも南十字星を見ることができるようにしたいと考えている」
定年を迎えてもなお物理学に対する熱意は冷めやらない。表教授のこれからの益々の活躍に期待したい。
(金武幸宏)