若者を中心にカメラアプリが人気だ。SNSのタイムラインを流れる写真には、カメラ目線の瞳を大きく開き、歯を見せて笑う写真が並ぶ。しかし、ある意味「作られた」その笑顔は、真の笑顔と呼べるのか。

「無理な笑顔や作った笑顔は本当の笑顔ではないと思う」。フォトグラファーの鈴木さや香氏は、赤ちゃんや家族などのポートレート写真を得意分野とし、それらの温もりが溢れる写真を多く撮影する。もともとテレビ制作会社に勤めていた鈴木氏は、仕事や職場の人間関係に追われていた頃、写真家・藤原新也氏の写真集「メメント・モリ」に出会ったことで写真の世界へ引き込まれた。文章と写真だけで構成されたその本を見て、映像と似ているが映像よりシンプルに成り立つ世界に感銘を受けた。

「対話ができないものは撮らない」。鈴木氏はCMなどの映像制作で学んだ文章を紡ぐ技術を、写真撮影にも生かす。被写体に対して対話をしながらカメラのシャッターを切っていくのだ。「これはなぜ青いのか」、「なぜこんな形をしているのか」。そんな疑問を投げかけながら、被写体のビジュアルだけでなく、時間や匂いまでもカメラに収めていく。

しかし、これらを収めるには、もうひとつ重要なことがある。それは、被写体を愛することだ。「被写体の表面ばかりではなく、そこに存在すること自体を最大限愛して肯定する」。これらの過程を通して、温もりのある写真が生み出されていく。

温もりのある写真の中には、笑顔がある。例えば被写体が赤ちゃんの場合、鈴木氏は彼らの両親とできるだけ多く会話をし、赤ちゃんが安心できる空間作りを心がける。周囲の雰囲気や感覚に対して大人より敏感な赤ちゃんが怖がらないようにするためだ。「安心できる空間を作れば、無理に笑わせようとしなくても赤ちゃんは自然と笑顔になる」という。

しかし鈴木氏は、見るからに笑顔だと分かるような写真には固執しない。写真は長い時間の中の一瞬を切り取っていくものだ。時には全く笑っていないのに笑顔でいるように撮れてしまうこともある。だからこそ、被写体を無理に笑わせるのではなく、心が楽しいと感じている一瞬を切り取ることを意識している。

写真を見返したとき、撮影した際のエピソードを思い返せるような、思い出のある写真を撮っている。「笑顔じゃなくても幸せな空間はある。隠れている心の中の笑顔を映し出したい」。自然な笑顔の美しいその写真たちの裏には、温かい物語があった。
(井上晴賀)

【特集】笑顔のつくり手たち