遠足先や癒しスポットとして定番の人気施設である水族館。水槽を見上げる人々は皆、笑顔だ。私たちは水族館の何に魅了されているのか。

「海洋立国で暮らす日本人にとって海はとても身近で気になる存在。実は水族館は全ての都道府県に存在するんです」と株式会社江ノ島マリンコーポレーション代表取締役社長の堀一久氏は、その安定した人気の理由を解説する。

運営する新江ノ島水族館、通称「えのすい」は、エデュケーションとエンターテインメントを組み合わせた造語「エデュテインメント」をコンセプトにしている。時間を忘れて癒される娯楽施設を超え、学校教育であまり学ぶことのない海への探究心も満たしたいという思いが込められている。

都内から離れた観光地、江の島でしか出来ないことは何か。2004年のリニューアルにあたり、地域性を活かそうと相模湾の豊富な生態系に着目したという。相模湾には日本近海に生息する魚の約3割に当たる1500種が存在する。その出来るだけ多くを展示することが「えのすい」の存在価値だと捉えている。

例えばこれまで、水族館の定番である大水槽の主役はエイやサメなど大型魚が中心だったが、あえて小型のイワシの群れを選んだ。これは前代未聞の挑戦だったが、無限に形を変える群れの姿が話題を呼び、現在は様々な水族館で見られるようになった。

魚の展示方法では臨場感を意識する。館内を順路に沿って歩くと、相模湾から太平洋へ移動する感覚が味わえるように水槽が配置されている。また大水槽のガラスに角度をつけ、壁が観客に迫ってくるように設計した。そのため水槽の前に立つと海の中にいるかのような感覚に包まれるのだ。

「えのすい」であり続ける

「えのすい」は現在16のチームに分かれて運営されている。それらがどのように立場の違いを乗り越えてひとつの施設を作っているのか。堀氏は「理念を共有すること」が大切だと語る。「全ての仕事は水族館として生物たちの『つながる命』の価値を伝えるためのものです。飼育など表舞台に立つチームだけでなく全てが同じ理念を持ち結集することで、水族館の価値を伝えられると思います」。理念の記された冊子を全スタッフに配布し、皆でよりよい水族館づくりを意識出来るよう努めているそうだ。

「えのすい」には現在8万人の年間パスポート保持者が存在する。彼らがいつ来ても笑顔になれる場所にしたいと願うとともに、堀氏にとっても常連客の存在が励みになっているそうだ。

堀氏は水族館としてあるべき未来について、挑戦し続けることと水族館としての基本姿勢を貫くことをあげた。より多くの魚を展示し人々の好奇心を満たしていく点で進化は無限大であり、今後「海より深く」可能性に挑戦していきたいと夢を語る。一方で癒しの空間を提供することが水族館として求められる第一の使命であり、いつ訪れても一貫した「えのすい」らしさを感じられる場所を作りたいとも話す。

常に変化しながらも不変の安心感を得られる場所。今日も館内は多くの笑顔であふれている。
(小宮山裕子)

【特集】笑顔のつくり手たち