「スマホに取って代わるイノベーションにしたい」。ここ10年で、あっという間にガラケーが姿を消し、スマートフォンの時代になった。しかしそのスマホ業界もすでに飽和状態だ。新しいコンテンツが生まれても、それらは全てスマホの中で完結しており、これ以上の発展は見込めない。スマホという形体自体を変えていく必要があり、そこで生まれたのが「Google Glass」や「Apple Watch」に代表されるメガネ型や時計型の製品だ。しかし競争の激しいIT業界ではこれらも失敗に終わり、次に注目を集めているのが人型のコミュニケーションロボットである。
『魔女の宅急便』のジジや『ゲゲゲの鬼太郎』の目玉おやじのように、小さい物知りの相棒が主人公を助けてあげる。このイメージのもと生まれたのが人型コミュニケーションロボット「ロボホン」である。開発者で東京大学先端科学技術研究センター特任准教授の高橋智隆氏は、「今のスマホの唯一の弱点は音声認識を人々が使わないことにある。四角い箱に話しかける気は起きないので人型にする必要があると思った」と話す。
ロボホンの背面には液晶画面が付いていて、タッチパネルとして操作ができる。通話とメールはもちろん、アプリを追加してタクシー配車やレシピ検索など、従来のスマホとなんら変わらぬ機能を有している。
しかし、スマホと同じでは意味がない。人型だからこそ生み出せるものが強みになる。人型をしていることでユーザーがたくさん話しかけ、彼らの嗜好などの情報が集まる。それらが膨大な情報として蓄積され、ユーザーに合わせたサービスを提供するという良い循環ができるのである。普段ずっと一緒にいればユーザーの好みを誰よりも把握できる。AmazonのようなECサイトと協力したら、その効果は大きそうだ。サイトの閲覧履歴などを参考にリコメンドされている今の状況から一転、いつも一緒にいる相棒に、より精度の高いおすすめを教えてもらえるわけだ。「サービスの質が変わると確信している」と高橋氏は言う。
人型コミュニケーションロボットならではの「愛着」がこのリコメンド機能を支えている。「役に立たないけど愛着があるからいい、という目的としての愛着ではなく、愛着があるからこそ、その先に生まれるサービスがある」という。
心の琴線に触れるなど人の感性については、我々自身でさえも理解できていない。なぜ相手が怒ったのか、急に泣いたのか、わからないことはたくさんある。しかしロボットの力を借りるとことで解決されるかもしれないと高橋氏は言う。「これをするとこういう感情を持つ」などのパターンを膨大に認識させることで、本人が気づかない喜びや悲しみが理解できるかもしれないのだ。このようにロボホンを通して人とコミュニケーションをとる形態が生まれる可能性がある。
人間とロボットが共存していく中で望むことは、「愛着によりコミュニケーションが生まれやすくなること。会話を繰り返す中で、我々が把握しきれない量の情報をロボットが管理してくれ信頼関係が生まれる」ことだと語る。最終的には「ログデータを蓄えつつロボットと一緒に過ごした経験の共有自体が、かけがえのない価値になる」
世界中でコミュニケーションロボットが盛り上がり、シリコンバレーを中心に中国や日本のベンチャー企業が様々なイノベーションを生み出している。「5年後までにロボホン1人1台の時代を目指す。そこで成功しなかったら終わりかもしれない。しかし我々が作ったものが生活を変えるかもしれないというワクワク感がまた何かを生み出す」とロボットクリエーターの高橋氏は熱く語った。
(山下菜生)