ラグビーの全国大学選手権は、12月20日に開幕し、前回大会準優勝の慶大は一回戦で、今季対抗戦初優勝を果たした帝京
大と対戦した。対抗戦では5―5で引き分けたライバルと決着をつける試合であったが、17―23で惜敗し、5年ぶりの一回戦敗退という結果に終わった。
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前半は対抗戦同様、緊迫した展開となった。21分、川本(総4)のPGで先制した慶大だが、直後にトライを奪われ逆転される。30分過ぎには怒涛の攻撃で敵陣残り1mまで迫るが帝京大の堅い守備に阻まれトライを奪えず、前半を3―7で折り返す。
後半、先に得点を奪いたい慶大だったが、開始僅か2分で帝京大の強力FWに押し込まれスクラムトライを奪われる。さらに
2本のPGで突き放され、残り10 分で17点差と厳しい状況に追い込まれる。トライが必要な慶大は、キック主体の戦い方か
らパス回しで敵陣に攻め込む形に変え、32分には三木(経2)、39分には立石(総2)が相手守備網を鮮やかに破りトライ。6
点差まで詰め寄る。なんとかもう1トライを奪おうと攻める慶大だが、帝京大の堅固な守備を崩せずノーサイド。
対抗戦王者を相手に死力を尽くし、「準決勝以上の戦いだった」と帝京大・岩出監督を唸らせる戦いを見せたものの、反撃が遅すぎた慶大。今季最後の試合は悔いの残るものとなった。
=秩父宮ラグビー場
「黒黄」が消えた。しかも、全国大学ラグビー選手権の初戦で――。
「『良い試合』は要らない」(SH花崎、総4)
身長1m59。グラウンドではその小ささが一際目立つ主将の悲壮に満ちた覚悟。だが、そんな彼の気概も空しく、破壊力抜群のFWを前面に押し出した帝京大の「シンプルな強さ」(林監督)の前に、慶大は屈した。
林体制2年目、春のオープン戦で全勝し、充実のシーズンインを迎えただけに、何とも呆気ない幕切れとなった。
◇「エリア」意識の戦略貫くも…
「質量に劣る慶大は接点が多いと消耗してしまう」(林監督)
接点の攻防を極力排除すべく、「キックゲーム」を志向するというのが、今季の慶大に通底する戦略の基軸であった。相手を徐々にキックゲームに誘い込み、まるでテニスのようにハイパント、グラバーキックの「ラリー」を応酬し続けながら、確実に陣地獲得を試みた。
黒星スタートとなった今季の関東大学対抗戦。ただ、明大戦(11月2日)に、このリアリスティックな戦略のひとつの結実を見た。試合を通じて、重量に勝る相手FW陣とのコンタクトを回避し、ひたすら「エリアマネジメント」に徹した。
この明大戦で慶大が挙げた24得点の内の半分は、今季指揮官がチームの核に据えたSO川本のペナルティゴール成功によるもの。「敵陣にいれば、相手にトライを取られることはない」(川本、明大戦後)。慶大が、如何に相手陣内でプレーすることを重要視しているか、彼の発言からも窺い知ることができる。
迎えた今回の帝京大との一戦。しかし対抗戦の「早慶戦」(11月23日)同様、組織の力だけではカバーできない、個の力の差を痛感させられる試合となった。特にLOボンド、FLツイの二枚看板を中心としたセカンドロー、バックロー陣の接点の圧力、「予想外に飛んだ」(林監督)FB船津のキック等々。
翻って慶大。フィジカル面での劣勢含め、個々の能力に差があるのに、攻守両局面において「勝負所のセットプレーが安定しなかった」(HO柳澤、経4)ら、上げ潮に乗る帝京大相手にもはや勝ち目はなかった。
◇雪辱を胸に、来季の飛躍誓う
「持たざるもの」としてのキック主体の戦略。その方向性に誤りはない。あとは、セットプレー(特にラインアウト)。指揮官の標榜する「モーションラグビー」の完成は、この脆弱な部分の改善を待たなくてはならない。
最後に一つ。
今回の帝京大との一戦、トライを決めたのは、今季ジュニアの試合でじっくり力を蓄えてきたLO立石、WTB三木の2年
生コンビ。「ウイング並のスピードを誇る」(林監督)立石と、「トライを取り切る力を持つ」(同)三木、両者の躍動――。 「先輩方の思いを背負えるのは、僕たち後輩しかいない」(CTB濱本、法政3)。仄暗いトンネルの中、一筋の光を見た瞬間であった。