6月1日は気象記念日である。141年前のこの日、日本での気象業務が始まった。以来技術は進歩を続け、今日では海面水温から台風の予測進路までかなり精密に分かるようになっている。

昨年7月、最新鋭の静止気象衛星「ひまわり8号」の運用が始まり、国際的な話題になった。今年は同型の9号の打ち上げも予定されている。身近にあるも意外と知らない気象観測について、気象庁で管理を担当する塚本尚樹さん、吉崎德人さん、長田泰典さん、遠藤寛也さんに話を聞いた。

ひまわり8号は、7号以前と比較して具体的にどうアップグレードしているのだろうか。注目すべき三本柱は「バンド数の増加」「解像度の向上」「観測時間の短縮」だ。

バンド数とは観測する波長の数である。AHIというセンサーにより観測バンドが5から16に増え、多様なカラー合成画像が作成可能となった。さらに解像度が2倍に、観測時間間隔が3分の1になったことで、得られる情報の量と精度が大幅にアップしている。両機から送られた画像をそれぞれ繋げると、パラパラ漫画とアニメーションの如く差が浮き彫りになった。このような観測機能の向上によりデータ量が50倍になったのだ。

データ活用のメインは「数値予報」である。大気の状態を気圧や気温、湿度などを基に物理的な計算を行うことで、将来の大気の状態を推定するのだ。また、黄砂や海氷などの実況監視も重要である。衛星の観測性能が上がることで、様々な分析がより正確かつスピーディーになった。

ただし、実は8号に使われているのは最新技術ではない。確かに気象衛星としては最新鋭だ。だが、開発されたばかりの技術を無差別に組み込んでいるわけではない。

気象観測にとって最も重要なことは「確実に継続できること」である。自然は恵みの源だが、同時にいつでも脅威になりうる。例えば洋上の台風監視にムラがあると迅速な対応ができず、被害は甚大になるだろう。気象観測はいわば国の責務だ。

衛星には、確実に利用し続けられる既存の技術の中から、国内外を問わずベストなものが使われる。新しければ良いわけではないのだ。気象庁はWMO(世界気象機関)の基準や学会の情報などを元に採用すべき技術を選別している。その上で予算と現行衛星の寿命を鑑み、新型の仕様を決めるのだ。例えば8号の本体は日本製で、カメラは米国製になっている。

また、気象観測は一国だけ行うのには限界がある。風も雲も海流も地球全体を巡っている。1つの静止衛星では、地球の自転に沿って動くため地球の半分以下しかカバーできない。そこで、国を超えた連携が必要になる。

WWW(世界気象監視)計画では、米国や欧州、中国などと協力し、常に全球の情報を共有している。当然、規格がバラバラでは元も子もないので、技術の標準化や相互評価も重要だ。

「気象に国境は関係ない」という言葉が印象的だった。普段何気なく目にしている天気予報や災害警報は、まさに世界の知の結晶と言えるだろう。
(玉谷大知)