福澤先生ウェーランド経済書講述記念講演会が先月16日、三田演説館で行われた。この講演会は、福澤諭吉が戊辰戦争の混乱の中でも動じることなくウェーランドの経済書について講義を行ったことを記念して毎年5月15日前後に開催されている。今年は慶大の杉山伸也名誉教授が「福澤桃介と松永安左エ門」という演題で、日本の電力業に大きな足跡を残した2人の人物について講演をした。

三田演説館で熱弁する杉山名誉教授
三田演説館で熱弁する杉山名誉教授
1‌8‌9‌6年、福澤諭吉恒例の朝の散歩で2人は懇意になり、丸三商会、福松商会といった共同事業を行う。桃介は株取引において今でいう約30億円を儲け、1‌9‌0‌9年に福博電気軌道を設立した。日本瓦斯会社、九州電気、唐津軌道、佐世保電気と次々と電力事業の会社を設立していき、桃介が会社の取締役社長、松永が取締役に就任した。桃介とは対照的に、松永は株価大暴落で大損害を被るが、桃介の厚意のもと成長をとげることになる。


その後2人は別々の道を歩むことになるが、桃介は大同電力を創設、松永も後に東邦電力社長に就任し、それぞれ成功を収める。桃介は「電力王」、松永は「電力の鬼」と呼ばれ、両者とも日本の産業経済に多大な影響を与えた。1‌9‌2‌3年には電気をめぐって顧客を奪い合う電力戦が繰り広げられるが、松永の主導によって大規模なコストカットを行い、東邦電力は競争力を回復した。

株主重視で発電送電に力を入れた桃介と顧客重視で市場と小売りに力を入れた松永、2人の考えや性格は対照的なものだった。しかし、朝の散歩から始まった2人の交流は大同・東邦電力といった二大電力会社の設立をもたらし、日本の電力業をダイナミックに発展させた。