いつの時代も人は「美しさ」を追い求める。日本人は、陰影を重視し環境との調和を美しいものと捉える。欧米人は、逆に光に焦点を当てて美を捉える。こうした地域ごとの美意識に対し、世界18カ国でブランド展開する日本発のメイクアップアーティストブランド「shu uemura(シュウウエムラ)」は、独自に美を定義している。
「本当に美しいものに、国境はない。女性の数だけ美と色は存在する」。「shu uemura」で商品開発、戦略を中心としたマーケティングを行うインターナショナルマーケティングディレクター・辰野めぐみ氏は話す。
独自の美意識を持ち世界で愛されるブランドは、どのようにその魅力を世界に発信しているのか。「shu uemura」の考える「美」を海外にアピールするために4つの要素を大切にしているという。一つ目はメイクアップアーティストブランドとして、創業者植村秀の愛弟子であるメイクアップアーティストたちの考え方を、ブランドのDNAとして捉えることだ。メイクの仕上がりだけでなくプロセスを重視すること、また日本由来の職人気質もそこに含まれる。
二つ目に、「Asian Beauty Insider」という考え方がある。売上全体の8割がアジア圏であることに加え、ブランド創業以来アジアの女性たちの肌に触れメイクを施してきた経験から、アジア人の美に対するエキスパートとなっていくことを意識する。三つ目は、海外進出にあたって最も強化した「東京らしさ」の追求だ。ブランド1号店がある表参道のようにファッションのエッジが立つ場所から東京らしさを見出していく。四つ目に、アーティストコラボレーション等を通してアートとの繋がりを広げ、美の新しい表現を追求し続けている。
海外市場だけでなく安く手軽に手に入る韓国コスメなどが人気を集める日本の化粧品市場においてもブランドの存在を確立し続けるには、先の4つの要素のようなブランドとしての哲学を持つことが重要であるという。そして同時に、オープンマインドも必要だ。調査、吟味して市場動向、消費者の細かいニーズを見極め、「shu uemura」ならではの視点を加えて製品として売り出す。ロレアルグループ唯一のアジア発メイクアップアーティストブランドとして、「アジアから世界へ」を意識し、アジア圏内の他国のメイク製品や技術、アイデアも積極的に取り入れることが求められている。「shu uemura」は12年前ロレアルグループに加入、海外進出の方法が大きく変化した。現地代理店を通した間接的な店舗展開を中止し、現地のロレアル支社による直接的な経営に乗り出した。そうすることで、世界中で統一したブランド表現が可能になった。「shu uemura」を語る上では、「多様性」というキーワードが欠かせない。上司や同僚も海外出身者が並ぶグローバルな企業環境であるロレアルの中で、日本発のブランドとして東京に本社を置き、「shu uemura」をブランディングしている。環境の多様性は「shu uemura」ならではの企業文化であり、他の企業とは大きく異なっている。辰野氏は「みな違って当たり前。上司や同僚は海外からの視点で日本の素晴らしさも語り、私たち日本人は違う視点を共有する。それらが新しい発見につながり、ひとつのブランド表現となっていく」
「慎重にリサーチを重ねた上で、shu uemuraの考え方や商品をもっと多くの人に広めていきたい」。アジアナンバー1のメイクアップアーティストブランドを目指して、「shu uemura」は独自の美を発信し、進化し続ける。
(井上晴賀)