新学期を迎え、1年間の計画を立てる季節がやってきた。私たちの生き方は大人目線からはどう映っているのだろうか。現代の若者を表現した「さとり世代」という言葉の生みの親である博報堂ブランドデザイン若者研究所所長の原田曜平氏に話を聞いた。
原田氏自身は、慶大在学中所属していた英字新聞部の活動で著名人に片っ端から連絡を取り、返事をもらうとすぐに会いに行っていた。政治家から俳優まで、自らが目指していた道とは直接関わりのない著名人との会話を通して、「一見挫折のない人生に見える著名人でも悩みがあるのだ」という当然のことに気付かされたそうだ。当時は情報化社会である現代のように簡単に答えが手に入らなかったからこそ、結果的に偏りのない幅広い意見を聞くことが出来た。
そのような経験から、原田氏は現代の大学生に共通する問題は視野が狭く、協調性を重んじすぎること、と指摘する。近年、若者の旅行離れが顕著だと言われている一方で、フィリピンなどへの安価な語学留学ツアーだけは売り上げが伸びている。英語力の向上が就活に有利だという理由からだが、「学生はもっと旅先の本質的な部分を見るべき」と話す。例えばフィリピンであれば現在人口が1億人間近であり、今後の日本にとって重要な国になるという一面がある。学生には就職につながるかという偏った短絡的な価値以外にも目を向けてほしいという。
さらに現代の大学生の視野の狭さを痛感した出来事がある。原田氏は若者研究所に所属する学生に取引先との食事会への参加を勧めているが、初めは多くの学生がそのことに戸惑いを覚えるそうだ。ビジネスの場で良い結果さえ出せば、プライベートでの付き合いには参加しなくてもよいだろうと考える学生に対して、原田氏はビジネスも人付き合いだと説得する。ライバル企業ではなく自社を選んでもらうために必要なのはよりよいアイデアだけではなく人柄であることも多い。結果という目先のことだけを追い求める学生達にはビジネスでのセオリーが不足している。
また、話し合いの場において、若者特有の協調性が仇になっている。互いの意見をすり合わせる傾向が強すぎるあまり、ありきたりな結論にたどり着きがちなのだ。自分の出した意見に対してより誠実になり、ぶつかることを恐れないことが大切だ。
最後に「さとり世代」、とりわけ塾生を叱咤激励してもらった。「慶大は格差社会の中で金銭的に恵まれている学生が多いですが、一方で偏った環境で暮らしてきた経験の貧しさを自覚すべきです。今後は意識的に様々なバックグラウンドを持つ人々と交流してほしいと思います」
(小宮山裕子)