「日本の『アキラ』というアニメーションのファンだったんです。英語版で見たのですが、当時の吹き替えは下手で、途中で切れていた。日本語を勉強して、最後まで見てやろうじゃないかと思いましたね」
日本語に興味を持ったきっかけを尋ねると、イギリス出身のデービット・アントーニ・カテルさんは、そう言って気さくに微笑んだ。
デービットさんは、現在イギリスのバーミンガム大学の国際ビジネスコースを専攻している。1、2年生の間、本国で日本での研究に備えてきた。3年目の今年、日本のビジネスと語学を学ぶため、慶應義塾大学に留学中だ。
今まで、彼はスノーボードのブランド会社に勤め、仕事でさまざまな国の会議に出席してきた。海外での仕事をこなすうちに、再び大学に入って広い視点からビジネスを学ぶことを決意したという。
「会社に勤めていたときは、日本での会議もありました。でも日本語のスキルがなかったから、参加できなかった。ビジネスで選択肢を広げるには、外国語のスキルも必要だと気付いたのです」
デービットさんは、日本社会に対して、さまざまな思いを抱く。戦後の混乱から迅速に先進国となった日本の姿勢から、学ぶことも多いという。 しかし、日本の働く女性への支援は、欧米と比べると、十分とはいえないと考えている。出産・育児のサポートは
これからの彼のビジネスに取り入れたい要素だ。
「日本と欧米とは、ビジネスシステムも全然違う。メリット・デメリットを学んだうえで、新しいビジネスのスタイルを自分なりに考えていきたい」
デービットさんは、日本文化にも深い関心を寄せている。シンセサイザーに入っていた琴の音色に魅了され、邦楽サークル「竹之会」に入会した。サークルでは、演奏会の練習に励んでいる。エレクトリックな音楽に、琴や尺八などの日本の音色をミックスし
てみたいそうだ。
「古きものを愛するという日本の精神は、音楽だけでなく、町並みにもあふれている」と彼は語る。
「イギリスの街は、アメリカの巨大企業が多すぎる。日本にも同じような流れはあるけれど、イギリスより昔の風潮を大事にしているように思える」
そんなデービットさんには、将来日本で暮らしながら会社を立ち上げるという夢がある。現在興味を持っているのは、フェアトレードの商品を販売する事業だ。4年間学んできた日本語も、デービットさんのビジネスの武器になる。
「日本と西洋を比較しながら学び、両者の良さを共存させた新しいスタイルを見つけたい」というデービットさん。専攻のビジネスでも、趣味の音楽でも、彼の眼は一カ所にとどまることを知らない。知識の先には、さらに広がる舞台が彼を待っている。
(佐々木真世)