慶大には学部で設置されている第二外国語の授業では学べない、珍しい言語を学べる講義が存在する。慶應義塾大学言語文化研究所が設置している特殊講座だ。開講されている講座には、日本語の手話など日常生活でも使える言語がある一方で、アッカド語や古代エジプト語をはじめとする、現在は使用されていない古代言語まで用意されている。私たちが現在「使えない」言語を学ぶ意味はどこにあるのか。アッカド語の講義を受け持っている、講師の高井啓介氏に話を聞いた。

そもそもアッカド語とはどのような言語なのだろうか。古代イスラエルの宗教や文化を研究する際、まずは基本となる旧約聖書で使用される古代ヘブライ語を覚える。その後発展的にメソポタミアなど周辺地域の資料を解読していく過程で必要になるのが、粘土板に楔形文字で記されたアッカド語だ。粘土板はパピルスなどとは違い、都市が破壊され焼かれる過程で、徐々に強固になる性質を持つ。エジプト語など周辺地域の言語と比べ、アッカド語は残っている資料の数が多く、数十万枚発見されているという。

初体験が満載だ
初体験が満載だ
元々、慶大にアッカド語の講座が設置されたときも、文学部民俗学考古学専攻で旧約聖書の時代の考古学や宗教を学ぶ学生のために、ヘブライ語などと共に狭い教室で4、5人程度からスタートした。しかし、履修する学生の層は10年程で大きく変化した。現在、アッカド語初級クラスを履修している人数は30~40人にのぼる。その中でも文学部の学生は3分の1程度になり、文系学部の学生がまんべんなく在籍する人気クラスとなった。



古代中近東の歴史や宗教の研究以外では使用する機会のないアッカド語のクラスに、なぜ学生が集まるのだろうか。講義をしている高井氏自身も、学生が履修し続ける動機が気になると話しつつ、その独特な授業スタイルにあるのではないかと推察している。

アッカド語の文法を学ぶとき、楔形文字を直接読むのではなく、音をアルファベットで変換して、文法を学ぶのが現在は主流だという。しかしそれではアッカド語らしさが伝わらないうえ、学生側の興味が保たれない。そこで楔形文字の翻訳表を用意し、原文を読む形式に変更したところ、解読の楽しさが学生間の噂で広がり、履修者が増加していった。さらに、講座の導入期には楔形文字を粘土板に掘る体験もでき、他の言語にはない魅力に興奮する学生も多いようだ。

楔形文字を読むことができるようになる
楔形文字を読むことができるようになる
このような講義を一般の学生が受けられるのは、専門の研究所を持つ慶大だけである。講義を通じて、未体験の発見に出会うことができる。既に様々な授業を履修し終えている学部4年生に特におすすめだ。

履修登録が2か月後に迫っている。古代言語を、来年度の履修計画の候補の一つとして検討してみるのも良いだろう。
(小宮山裕子)