これから慶應に入学して、将来はメディア方面で活躍したいと考えている受験生もいるだろう。そこで今回はアナウンサーとして32年間、第一線で活躍されているNHKの緒方喜治アナウンサー(法学部政治学科S49年卒)にお話を伺った。
緒方氏は、スポーツアナウンサーとして数多くの現場で実況してきた。現在は、NHK日本語センターでアナウンサーの指導や職員研修の講師、『大相撲・幕内の全取組』という番組の案内役を務めている。さらに、日本相撲協会にある相撲研修所で、新人力士に言葉の使い方やインタビューを受けたときの振る舞い方を説くなど、大相撲の発展にも尽力している。
学生時代、もともと興味があったマスコミの仕事に就きたくて、放送サークルに所属していた。そこでラジオドラマなども経験したが、当時は学生運動の真っ只中。純粋に放送について研究する環境ではなく、結局二年生で辞めてしまう。その後、文章を書くことが好きだったこともあり、編集長として一、二ヶ月に一回、そのときどきに感じたことを雑誌として出版した。さらに三年生からはマスコミ研究のゼミに入り、本格的にマスコミの道を志す。
NHKに入局した後は高校時代から始め、現在まで続けているというテニスの経験を活かして、ウィンブルドンの実況担当となる。さらにはバイクも趣味であり、鈴鹿サーキットで行われている8時間耐久レースのNHK第一号アナウンサーとなった。
緒方アナウンサーと大相撲との出会いは昭和56年。当時はちょうど『角界のプリンス』と呼ばれた元大関・貴ノ花が引退する場所で、あわただしかった記者室を今でも覚えているという。それから今年まで25年間大相撲を見てきた。
彼に「最強の力士とは?」と質問すると、大横綱として一時代を築きあげた『千代の富士』と返ってきた。彼の活躍していた時代はまさに大相撲全盛期。当時と比べた相撲界の現状について緒方氏は、「今まで常にいた、名力士を引き立てる名ライバルという存在がいない」ことに〝人気低迷〟と言われる原因があると捉える。さらに朝青龍や琴欧州といった海外からの力士が中心となっていることについては、「寂しさもある」と言うが、小泉総理が『相撲は今までは国技だったが、これからは国際技』と発言したのと同様に、認めるしかないのが現実のようだ。しかし、「彼らは(引退後、祖国で相撲指導者として)相撲の良いところや日本人の精神・しきたり・風習を世界に広めてくれる」とも語った。
氏はまた、「大相撲を含めてスポーツは生放送。その瞬間、瞬間どうなるか判らない中で、自分の唯一の武器である『言葉』を使って、いかに視聴者に的確に、わかりやすく短いフレーズで伝えるかが重要だ」と、アナウンサーの大変さについて語る。自分の表現した言葉がスポーツの一場面にうまくはまり、翌日の朝刊の見出しとして使われていた時には充実感を感じたという。
最後に塾生へのメッセージとして「(自分の学生時代と比較すると)今の大学生はその日の朝刊の一面も知らなかったりする。もっと社会現象に対して敏感になって、自分たちから情報を発信するような立場になってほしい」と語り、また受験生に対しても「大学に入ると心を許せる一生の友達ができる。慶應でそのような時代を過ごすことは、人生の中でも意味のあることだ」とのエールをいただいた。
(星野佑太郎)