12/13(土) 秩父宮ラグビー場 (東京都港区)
12:00 Kick off ● 慶應義塾大学B 20-31 早稲田大学B (関東大学ジュニア選手権決勝トーナメント「グレード1」決勝)
※ 今季、慶應義塾大学Bは、第30回関東大学ジュニア選手権大会リーグ戦(9/13~11/16、慶應Bはカテゴリー1所属)を3位で終了。リーグ戦の上位4チームが出場できる「決勝トーナメント(グレード1)」初戦で、慶應義塾大学Bは帝京大学Bを逆転で下し(11/30、○21-18)、見事グレード1決勝の切符を獲得。だが、決勝の相手・早稲田大学Bの壁は予想以上に厚く、20-31で惜敗。結局、「グレード1準優勝」という形で、慶應義塾大学Bはシーズンフィニッシュを迎えた。
12/13。関東大学ジュニア選手権決勝トーナメント「グレード1」決勝・早稲田大学B戦の前半。
普段の試合とは違う、黒黄(こっこう)のユニフォームを身に纏い、秩父宮の芝の上を疾駆する慶應義塾大学Bの選手たちの姿をカメラのファインダー越しに眺めながら、筆者はある思いを募らせていた。
〈慶應が本来やるべきことを、早稲田にやられてしまっている…〉
「(ジュニア選手権の)決勝トーナメントに入ったら、もう細かい技術論云々じゃない、試合を支配するのは『熱』しかない」(林雅人監督、グレード1準決勝・帝京大学B戦後のコメント)
確かに「熱」は、到るところに見て取れる。
例えば、早稲田Bのボールホルダーに対するFW陣の飽くなきチェイシング。何でもない、ひとつひとつのチェイシングにも、熱はしっかりと宿っている(勿論、試合を重ねる毎に、肝心の精度もグンと増してきた)。
低く鋭いタックルを基本とした、粘りのディフェンス→コレクティブなカウンターアタック。慶應Bが目指すべき戦略の機軸を今一度整理した上で臨んだ早稲田B戦だったが、相手にはまったく通用しない。というより、むしろ早稲田Bこそが「その戦略」でこの試合に向かって来ている気が、筆者にはしたのだ。
選手全員、最大限の「熱」の発露を持って、突き刺さるような低く鋭いタックルを繰り返し、ターンオーバーを誘発する。一旦ボールを奪取するや、即攻撃に繋げる。キックで陣地を獲得し、要所での素早いパス交換で慶應Bディフェンスのギャップを付く――。少なくとも、プレーに「迷い」がない。
翻って、慶應Bは全体の「熱」を上手く昇華し切れていないように見える。
相手の出足の鋭さに翻弄され、攻守両面で中途半端なプレーが目立つ。
それでなくても個の力で勝る早稲田相手、〈これじゃあ「窮鼠(きゅうそ)猫を噛む」も不可能だろう〉と…。
「早稲田Bが、ドリフトしないド詰めのシャローディフェンスで。シャローディフェンスに対するアタック(の練習)は、春からずっと取り組んできたんですけど、今回十二分には機能しなかったですね…。選手たちも『1・2・3・ドン』と相手にぶつかっていけば良いのに。余裕がないからプレー自体浅くなる。慶應がトライを取るというイメージがなかなか湧かないような(前半の)展開でした」(林監督)
林監督の言葉にもあるように、前半特筆すべきは、やはり早稲田Bのディフェンスだったと思う。
ワン・バイ・ワン、1対1の勝負で絶対に相手に屈しない――。
本来この分野には「一家言」持っているはずの慶應が、(少なくとも)前半は完全に後手に回った。「魂」と形容される、低く鋭いタックルを容赦なく相手の膝下に見舞っていたのは、間違いなく早稲田Bの方だった。
目の前の相手を「倒し切る」ディフェンス。素早く間合いを詰め、相手に考える余裕を与えない早稲田Bのディフェンスに、前半通して慶應Bは手を焼いた。
結局、前半の慶應の得点は、前半11分FB和田拓(法政2)のPG成功で得た3点のみ。
「(ラグビーの試合においては)精神的にも限界、ギリギリの点差」(林監督)という、3-24の21点差で前半を折り返す。
後半は、風上に立った慶應Bのキックオフで開始。
「22m(ライン)の中に入って、ボールを持って攻めてないだろう!と」(林監督)。指揮官の檄が効いたのか、学生王者を前に若干腰のひけていた慶應Bの選手たちに、いつもの躍動感が戻ってくる。
まずは、開始僅か1分。
ハイパント応酬の流れからFL阿井宏太郎(環2)がボールをキャッチし、CTB落合陽輔(経2)→CTB篠原健悟(法政4)→WTB金本智弘(理工2)と素早く右に展開。
すると金本が、昨季まで慶應の右サイドに君臨した山田章仁(’08年卒、現ホンダヒート所属)を髣髴とさせる見事なスワープで、対面の選手を振り切りトライ。このトライで、慶應Bに一気に流れが傾く。
「後半は、キックから敵陣に行って、良い形が生まれた」(SO川崎大造ゲームキャプテン)
風上の優位性を存分に生かした川崎のキックは非常に有効で、例えば後半17分には(慶應の)右サイドに敵の注意を引き付けておいて、直後、左サイドを疾走するWTB保坂梓郎(環2)に絶妙なキックパスを送り、結果保坂のトライを導くなど、「キックでエリアを取って、ボールを動かして攻める」(林監督)という指揮官の意図は、川崎の精巧なゲームメイクと共に、グラウンドの上で具現しつつあった。
後半17分の保坂トライ後の、FB和田拓のコンバージョンキック成功で、遂に20-24。前半終了時には21点あった差が、一気に4点に縮まった。流れが途切れる気配もない。「いける」。慶應の選手、スタッフ、そして取材者。誰もがそう思った――。
「うーん…。本当、残念です…。悔しいっすね…」(PR福岡良樹)
試合後のミックスゾーン。重苦しい雰囲気が、辺りを包む。
結論から言うと、自分たちが「モメンタム(試合の流れ)」を掴んでいた後半20分前後に、何度か好機を迎えながら、結局それをモノにすることができなかった(そして、早稲田Bにトドメを刺された)。
フロントローの視点。あの時間帯、文字通り「押し切れなかった」(福岡)。
懸命に絞り出す言葉の端々に、タイトヘッド(3番)としての矜持と無念とが交錯する――。
「今日とかも同期に、試合前に手紙をもらって。出られない奴の分まで体張らないと、と思ってこの試合に臨んだんですけど…。強みと踏んでいたスクラムで、浮いてしまって。もっと出来ただろ、もっとプレッシャーかけられただろ、みたいな…。見てた奴らに、すまないって気持ちで一杯です」(福岡)
ゲームキャプテンの視点。
「良い流れの時に、ワン・バイ・ワンで負けたことが全て。早稲田Bのディフェンスに外側から塞がれてしまった。東海B、帝京Bなんかにはなかったディフェンスで、BK全体が戸惑ってしまった」(SO川崎大造ゲームキャプテン)
「SOとして、キックから試合を組み立てていこうと考えていましたけど…(中略)。僕自身も、ずっとBチームにいられる人間ではなかった。良いSOが沢山いる中で、彼らがケガしたりしてチャンスを頂いた形で(前節の帝京B戦、今節の早稲田B戦と)出場した。そいつらの為にも、早稲田B戦は絶対に勝って終わりたかった。優勝がもう手の届くところにあったのに…」(川崎)
福岡も川崎も共に4年生。
時の流れは残酷で、この春に最上級生となったばかりの彼らにも「引退」の二文字が、否応なく押し寄せる。大学ラグビーには「4年」という厳格なリミットがある。だが、「終わり」が見えたからこそ紡ぎ出される、真っ直ぐで、かつ脚色なき言葉――。
「(後輩には)もう、教えるとかじゃなくて。毎練習毎練習、最後まで真剣に取り組む。そういった姿勢を見せて、引っ張っていきたい。最後まで諦めずチャレンジしていきたいです」(福岡)
念願の早稲田戦勝利には、またしても手が届かなかった。先輩の頬を伝った涙、悔し涙。
でも、こうやって先輩の「意思」は確実に後輩へと、脈々継承されていく。
+ + +
まだ残暑厳しい9月中旬、燦々と照りつける太陽の下、帝京大学グラウンドから始まった今季のジュニアチームの「冒険」は、本格的な冬の訪れを感じさせる秩父宮ラグビー場のグラウンドで終幕した。だが、まだ「Aチーム」、つまりレギュラーチームのシーズンは終わっていない。
1週間後に控えた、第45回全国大学選手権大会1回戦・帝京大学戦(12/20、於:秩父宮ラグビー場)。
今回のグレード1決勝・早稲田大学B戦と同じ、「聖地」での帝京戦。スターティングメンバーとしてグラウンドに立っている選手は、今回の早稲田Bのメンバーとは大幅に異なることが予想される。いや、正直に告白しよう。今回のメンバーの大半は、ベンチにもいない。
彼らは、一体どこに?
秩父宮の観客スタンドの一角で、大声を張り上げている。
仲間を信じて。ただ、仲間の勝利だけを信じて。
(2008年12月23日更新)
写真・文 安藤 貴文
取材 安藤 貴文