インターネットが発達しSNSを通じて誰でも気軽に発信することができる時代だ。そんな中で、少数出版のジャンル「ZINE(ジン)」は近年、新たな書籍文化として紙媒体の良さを再提示している。
BACH代表で、ブックディレクターとして活躍中の塾員、幅允孝さんにZINEの魅力と、日本における書籍文化の変化について話を聞いた。
ZINEの始まりは1930年代にさかのぼる。アメリカのSF映画やロンドンのパンクカルチャーなど、多様な文化の中でファンたちが主観的な目線で語り、思いの丈を綴ったのが少数出版の同人誌・ZINEの始まりだった。
日本でZINEがファッションやカルチャーに結びつくものとして広く注目されたきっかけの一つとしては、書店のイメージが変わったことが挙げられる。2003年にオープンした『TSUTAYA TOKYO ROPPONGI』はその先駆けだ。カフェと書店が融合した「カルチャースポットとしての書店」の原点だ。ここから、「人々が語り合う動的な場」としての書店スタイルが普及する。書店の器が大きくなった。従来の書店にみられる整然とした陳列ではなく、より自由で編集可能なものになったのだ。その流れで、同人誌であり公の場に出ることのなかったZINEも書店に並ぶようになった。
「ZINEは読むだけでなく自分で作ることがとても楽しい」。自身も以前、大ファンであるサッカーチーム・アーセナルにまつわるZINEを製作した。アーセナルへの行き場のない大きな情熱をぶつける場所には最適だったという。
幅さんが友人たちと製作したZINE、『WE LOVE ARSENAL』はその内容の豪華さからファン界隈で話題を呼んだが、250部しか出版されなかったために2日で完売した。
本や音楽など、個人でダウンロードが可能になり部数という概念がなくなった世の中だ。少部数に限られているため読み手にとっても価値が高い媒体が生まれた。
出来上がったZINEはロンドン在住のアーセナルファンのブログで紹介してもらい、その知名度を上げた。作ったZINEをどう広めるか、どのような人に手にとってもらいたいか。その流通の手段を少し考えるだけで広がり方は大きく変わる。
またZINEは紙媒体であるため、本棚に置いていつでも繰り返し見ることができるという安心感がある。情報が常に流れ消えていくSNSとは異なる魅力だ。どんなにインターネットが普及しても、本としての強さや価値はこれからも残り続けていくだろう。
(平沼絵美)