キャンパスで時々見かける社会人学生。おそらく多くの学生が彼らに対して、自分たちとは違った講義に対する真摯な態度を感じているのではないだろうか。そこで社会人の学生に、慶應義塾大学で学ぶ契機や目的について伺った。
1人目は文学部在籍、日本史学を専攻している正田実さん(54)。正田さんは慶應義塾法学部を卒業後、30年間東京海上日動で働いた。今では環境関係の自営業を行いつつ、大学に通っているという。
もう一度大学に入り、日本史学を学ぶようになったのは、「長い間社会人として働き、日本人のアイデンティティーに興味・疑問を持つようになった」ことがきっかけである。
正田さんの1度目の大学時代は、体育会ホッケー部に所属しており、午後の授業は必修以外ほとんど出られない状況だったそうだ。「それに比べると今の学生は割と真面目に授業にでている」という。
2度目の大学生となった今、講義に対する態度が変わった。「学費を自分で払うのと、親に払ってもらうのとでは授業に対する真剣さに大きな違いがでる。学生時代ももう少し、しっかり勉強すればよかった」
2人目の谷口泰史さん(61)は法学部に在籍。谷口さんは東京水産大学を卒業後、技術系の職業を務め、退職後、慶大に入学した。
大学に入学するきっかけとなったのは、会社での弁護士との出会いである。
「話していて、非常に優秀だなと思った。問題解決の本質を知っていて、一体大学でどのように学んだのだろうかと興味を持った」
ちょっとした興味から、自分も大学で法学を学ぼうと思ったそうだ。
しかし、入学後の1年間は、講義を受けても頭に入らず、とても苦労したという。民法や憲法などは特に難しく、単位も落とし、1年で辞めようかとも思っていた。
だが3年たった現在、ようやく1年目に教わったことが理解できるようになった。何より、教員の素晴らしさに感激しているらしい。「授業は1回当たり、だいたい5000円位かかる。でも、先生が教えている内容を考慮すれば高いとは思わない。先生がどんなテストを出すのかが楽しみ。寝ている学生を見るともったいないなと思う」と谷口さんは語る。
2人の社会人学生と一般の学生の違いはなんだろうか。
人によるだろうが、多くの学生にとって大学で学ぶことは、高校、大学、社会人というプロセスの中にある、次の段階にステップアップするための手段になっているように思える。それに比べて社会人学生にとって大学で学ぶことは、学ぶこと自体がひとつの目的となっている。
親に学費を出してもらい、周りに支えられながら大学に通っているからこそ、我々が彼らから学ぶべきことは多いだろう。
(名倉亥佐央)