独特の泳ぎ 「日本泳法」
日吉協生館の地下にはプールがある。水球や飛び込みなどの練習も行われている中、独特の泳ぎを見せる人たちがいる。体育会水泳部葉山部門の部員たちだ。
「葉山」というのは、福澤諭吉が神奈川県の葉山町で泳いだという話に由来している。それにちなんで、昔は葉山で夏合宿もしていたそうだ。
練習は高校の部員と合同で、週に8回。練習の回数が多いのは、感覚を忘れないためだ。内容は、日本泳法という泳ぎ方の練習と、夏合宿で行われる遠泳の練習がある。泳力をつけるほかにも、海で潮の流れや水温に耐える力をつける、仲間との信頼関係を作るといったことも練習の目的である。
日本泳法は、戦国時代にまでさかのぼる、古くから伝わる泳ぎ方だ。水泳部葉山部門ではその中で水府流水術という、水戸藩で継承されてきた泳ぎ方が採用されている。
日本泳法には級が設定されていて、泳ぎの速さではなく型のきれいさが判定される。特に4級から3級への進級難しく、それに応じて帽子の線の色も変わる。普段、このための模擬試験が練習の一環として行われる。
自身との闘い 海での遠泳
遠泳は、葉山部門の特徴でもあり、こちらの練習がメインである。本番の遠泳では、部員が先導のボートに続いて列をなして泳ぎ、伴走の船から給水などサポートをする。練習ではこれに近い形で11時間、プールで泳ぎ続け、周りもサポートする。
遠泳には第1~3段階のレベルに分かれていて、それぞれスピードと距離が格段に違う。基準を満たさないと、第1・2段階の遠泳の挑戦権が得られない。水泳部葉山部門には、この中の第3遠泳を完泳した女子部員がいる。佐々木衿香さん(総3)だ。
刺激受け 自身も選手に
佐々木さんは慶應義塾ニューヨーク学院からSFCに9月入学したが、それまではクロスカントリーをしていたという。新歓期に日吉で勧誘を受け、葉山部門にマネージャーとして入部。入部後は部員のサポートをしていたが、遠泳を見て感動し、自分もやりたいと思い選手として活動するようになった。
葉山部門の良さについて、「日本泳法や遠泳、伴走の船や先導のボートなど、それぞれで活躍できる場がある。部員とマネージャーという仕切りはあまりない。部員も、みんな人柄が良い」と話した佐々木さん。個人の目標については、「第2遠泳で完泳すること。そのためにも、決められたスピードで泳げるようにレベルアップをしていきたい」と意気込みを語ってくれた。
主将としての挑戦
また、水泳をやっていた兄の影響で遠泳を始めたという主将の田脇裕太さん(理3)は、「主将として葉山部門の長い伝統を守り、次の10年を考えていくことが重要。また、遠泳のコース設計も自分を含めた代でやるので、部員の命を預かると共に、遠泳がただの『冒険』ではなく『挑戦』であるようにしたい」と語った。
体育会水泳部の中に遠泳に取り組んでいる部門があることを、知らないという人も少なからずいるだろう。そんな人は、海にはすぐに行けなくとも協生館のプールに足を運んでみるとよい。そこには日々精進する部員の姿があるはずだ。
(八木理志)