皆さんは、中秋の名月についてご存知だろうか。毎年の旧暦8月15日の夜に見ることができる、ひときわ丸く美しい月のことである。この中秋の名月を単なる月見の対象にとどめず、「丸い月」とかけて「団らん」の日として祝われるのが、中国の「中秋節」だ。
中秋節とは一年の中で最も美しく映える満月を肴に、一家全員で観月して団らんを楽しむ、なんとも素敵な中国の祭日だ。一人っ子政策が施行された今でこそ家族の縮小化が進んでいるが、かつての中国では一家に5人も6人も子供がいるのが当たり前で、家族全員が集まる機会は少なかった。それだけに中秋節が持つ意味は大きく、「月が丸いときは家庭も円満であれ」という願いを込め、団らんの日として祝ったのである。
中秋の食べ物としては「月餅」という菓子が有名だが、本来は中秋において神に供物として捧げられていた儀礼的なものである。実際には月餅に限らず、旬のフルーツ盛りや鴨の丸焼きなど各家庭なりに普段より豪勢な食べ物が食卓に並ぶことも多いという。
「家族が集う日」として、大きな意義を持つ中秋節だけに、思い出深い日として記憶する人も多い。「小さい頃は月餅を買うお金もないくらいだったので、糠が大量に混ざった粗悪な小麦粉の中に、申し訳程度の砂糖を包んだ粗末なもので代用した。しかし一家団らんの中で食べたそれは、今思い返してもとても香ばしくて美味しかった」。50年以上も昔、中国全体がまだ圧倒的に貧しかった幼少期の思い出を、呂寅秋さん(65歳・中国人女性)はこう振り返る。親元を離れ北京の大学に留学している厳文欣さん(20歳・中国人女性)は、「寮にいるのは親元を離れている学生ばかりなので、去年は自分たちでお祝いしようと張り切ってピザのように大きな月餅を持ってきた人もいた」と学友たちとの一風変わった団らんの思い出を楽しげに語った。
では、日本において、中秋はどのような日なのだろうか。地方によっては古来の中国と同じく、神々へお供え物をして月見をする日としているところもあるが、団らんの日とは捉えられてはいない。
そもそも中国には中秋節だけでなく春節、清明節など、意義こそ異なるが一家団らんの機会となる祝日が多い。一方日本では、行事や季節の変わり目を知らせるものが多い。中秋の名月に関しても、純粋に秋ならではの風物詩として捉えられてきた。
もちろん、ただ中秋の名月を見るだけでも、充分に風流なことには違いない。しかし中秋節本来の良さは、一年で最も綺麗な月を観賞する味わいを大切な家族と共有できることである。人々のつながりの希薄化が叫ばれるようになって久しい。そんな時世だからこそ、中華伝来の風流な中秋節を楽しんでみてはいかがだろう。 (辰巳龍)