5月27日、文部科学省は全国の国立大学に対して人文社会科学および教員養成を目的とした学部・大学院の統廃合、規模縮小を要請する通知素案を公表した。
これには多くの大学が反発を示しており、今後国立大学でどのような学部改変が行われるのか注目が集まる。
高等教育論が専門で東京大学大学総合教育研究センターの小林雅之教授は、今回の素案の実施が対象分野の研究の遅滞と地域格差を招くと警鐘を鳴らす。
人文社会科学および教員養成に割く人員や資金を削減することが直接的にその分野の研究と教育を衰退させるのは明らかだ。
加えて大学の数が少ない県で、幅広い分野の教員を雇用し、県内の他大学にも派遣している国立大学の重要性は高い。その一部を統廃合・規模縮小することはその地域での研究が停滞し、学問上の地域格差を生む。
「今回の政府の方針は就職のかたちが変化したことが原因だ」と小林教授は分析する。
バブル崩壊後に日本の終身雇用制度が崩れ、新自由主義的な制度改革が行われるようになると入社後に数年で退社する社員が増えた。これにより、それまでは新卒で一括採用を行い、職業教育を行っていた企業も技術や人材の流出を考えたとき、それまでのシステムが実益にかなわないと判断するようになった。入社後教育にコストをかけること無くすぐに働ける即戦力人材を求めるようになったのだ。
このような社会的なニーズが高まっている現在、工学部や経営・商学部などの実践的な学部と比較して人文科学や教員養成を目的とした学部は「浮世離れ」した存在とされる。人文社会や教員養成を目的とした学部に未来はあるのか。
「これからは予測できない変化に対応することが求められる。それには長期的な視点を持ち、一見無駄に見えることを大切にする必要がある。外国の文化を知ることや歴史を学ぶことの重要性はこれからも変わらないだろう」と小林教授は語る。「短期的にみて役に立たないものとしてよくインド哲学が挙がるが、現在、経済発展著しいインドが日本の重要なパートナーになる日は近い。インドの思想文化に精通した人材の重要性は高まる可能性がある。仮に、現在その学部を縮小することになればその芽を摘むことになる」
「木を見て森を見ず」という言葉がある。今一度「森」を見る努力が日本には必要とされているのかもしれない。
(田島健志)